淫神楽〜第4話〜


「はぁぁ……あぁ……あぁ……」

 静音は地面に膝を突き、大きく肩で息をする。欲望と白濁をひとしきり出し尽くした後に残ったのは、このまましばらく動きたくないと思えるような虚脱感だった。
 目の前には口を半開きにして虚ろな視線を中に泳がせる菜摘が横たわっている。何十度も連続して気を遣らされたためか、意識が有るのか無いのか外見には区別が付かないほどの放心状態だ。
 弛緩した淫裂からは、限界まで注がれていた白濁が涎のように溢れている。一方の、菊門を裂けんばかりに押し広げていた蟲は、まるで一休みするために巣穴に帰っていくかのように、するするとその姿を菜摘の腸内へと引っ込めてしまった。

「着床したようね。これで菜摘にもようやく『枷』が与えられたのよ」
「枷……?」

 穂積は地面に横たわった菜摘の顔をのぞき込むようにしゃがむ。そして、呆然と成り行きを見守っていた静音に対して説明を続けた。

「そう、現世への未練を断ち切って、己が管魔様に捧げられた身であることを自覚させてくれるもの。私たちの快楽の源よ。あなたにもあるでしょう?」

 穂積はだらりと垂れ下がった静音のペニスを指さして言う。

「これが……枷……」
「私の場合は……これね」

 言いつつ、白衣の胸元をはだけてみせる。ぶじゅっ、という吸盤が剥がれるような音を伴って、薄赤く腫れた乳房と赤黒く肥大した乳首が露出する。白衣の裏地には、苔のようにびっしりとミミズ状の触手が生えていた。

「この装束が私の『枷』……決して脱げないのよ。1年間ずっとこの装束を着たまま、おっぱいがこんなに変形して感じやすくなるまで責められ続けてたの。六車の家のことも、お社のことも、自分が巫女だったことも忘れかけてるのに、ずっと自分はこの格好のままなの」

 穂積は胸元を正すと、虚ろな視線を静音から菜摘へと移して語り続ける。

「でもそのおかげで……菜摘、あなたのことだけは忘れずに居ることが出来たわ。それがたった一つだけ、私がこっちに残してきた心配事だったのよ」

 柔和な笑みを崩さぬまま、穂積は横たわる菜摘の髪をなでた。

「お姉ちゃん……一緒に、帰る……待ってるのイヤ……」

 性感帯と化した消化管を内側から蟲になぶられ、快楽のあまり朦朧とする意識の中で、菜摘はうわごとのように繰り返していた。

「……安心して。これからはずっと一緒だから……菜摘を置いてどこにも行かないから」
「ほ……んと……?」
「ええ、一緒に帰りましょう。これからはずっと幸せだから。無理して戦ったりしなくていいのよ……」

 穂積は立ち上がり、左手で軽く宙を薙ぐ。すると、何もなかったはずのその空間に小さな黒い点が出現した。点はみるみる大きくなり、周囲の空間を取り込むようにして大きな丸い球体へと成長してゆく。穂積が、菜摘が、そして六車神社に関わる者全てが全力を持ってその存在を消さなければならないはずの『門』が現れたのだ。だが、熔けきった菜摘の脳には、その使命を思い出すことはおろか、何が起きているのか認識する力も残されていなかった。

 ぐったりとした菜摘の身体を抱え上げた穂積が、続いて静音がその暗闇の中に姿を消す。宙に開いた『門』は、その後数十秒形を保っていたが、徐々に小さくなり、そして周囲の空気に溶けるようにして消滅した。後には菜摘が身につけていた朱い袴と拳銃だけが、ぽつんと残されていた。





 もどかしいような、くすぐったいような、柔らかな感触。前後不覚の状態から回復した菜摘が最初に感じたのは、頬への愛撫だった。続いて重力の感覚が戻ってくると、自分がうつぶせに倒れ込んでいるのに気がつく。
 床は一面生物の内臓を思わせるグロテスクなピンク色で、いたる所から肉管状の触手が生えていた。菜摘の頬を撫でるのもそのうちの一本だ。

「ここ……一体どこ……?」
「ここは管魔様の体内……あなたたちが『狭間』って呼んでる場所よ。現世と黄泉の間にある世界って教わったでしょ? そして私が一年を過ごした場所……」

 枕元で語る穂積は行儀良く正座したまま、優しげな微笑みを絶やさない。

「初めは何とかして逃げ出して、菜摘のところに帰ろうと思ってたのよ。でもね、時間が経つにつれて、私たちはこっちにいるのが正しいんじゃないかって思うようになったの」
「……」

 よろよろと身体を起こしながら菜摘は説明を待つ。もはや怒りも悲しみもなく、ただ穂積の思うところを知りたいという気持ちだけだった。

「起源とか構造はよく分からないんだけど、ここは本来存在しないはずの空間らしいの。だから、ちゃんとした『世界』として存在する現世や黄泉によって押しつぶされようとしている。常にエネルギーが供給されないと形を保つことが出来ないの」
「消滅の危機を感じ取ったこの空間は、自らの形を保つために意思を持つようになった。それが管魔様というわけ。そのためのエネルギー源として選ばれたのは、私たち人間の女性の脳から生み出される『快楽』だったの。そしてその供給源を手に入れるために、自らの空間の一部を現世に具現させたもの……それがあなたの知ってるあの姿の管魔様なのよ」

 そこまで言うと穂積は「わかる?」といった風に菜摘に微笑みかけた。菜摘は説明の半分も理解できていない様子だったが、これから自分が晒されるおおよその運命は察したようだった。

「そ、それじゃ私たちは……」
「ええ、『贄』としてこの世界を支える礎に選ばれたの。これって素晴らしいことだと思わない? 神社の庭を掃除するよりもずっと有意義だし、心配事も無いし、毎日が幸せで満ちてるのよ」
「……」
「まだ納得できない? それじゃあ具体的な例を見せましょうか」

 穂積は、ためらいの表情を浮かべる菜摘の左5メートルほどの場所を指さす。そこには、全身をのたくる触手に身を預けてよがり狂う静音の姿があった。

「え、え……?」

 突然現れたわけではない。ただその場所に意識を向けていなかったために、静音の存在に気がついていなかったのだ。

「びっくりした? でも、ここでは何かを積極的に見ようとしないかぎり何も見えないというのは普通のことだから。意識の指向性が増すのよ。その方が快楽に耽溺するには都合がいいのよ」

 穂積の説明を聞きながらも、菜摘の視線は完全に静音の姿に釘付けになっていた。

 制服はおろか、下着すらはぎ取られて、全裸に靴と靴下のみといった姿で仰向けに倒れ、ほとんど海老反り状態になっている。反り返った全身を何十本もの半透明の触手が覆い、耳穴からうなじを、屹立した乳首を、柔らかな腹を撫で犯し続けている。股間では、ただなぶられるためだけに勃起している哀れなペニスが筒状の触手にしごかれ、さらに尿道の奥深くまで細い触手が挿管されていた。
 すぐ脇の二つの穴――女の穴と排泄の穴には絶えず柔らかな触手が出入りしていて、その度に静音は涎と愛液と腸液を撒き散らしながら腰を振って悦びの嬌声を上げ続けていた。

「あ、あああおぉぉぉぉーーっ、ひぐぅっ……オチンチンいくううぅ! なかぁ……こしゅられるの凄いよぉ……ひぐっ、いぐぅぅっ、きゃううううううううーーーっ!」

 静音にとっての快楽の源であるペニスを内と外から擦られ、静音はあっさりと絶頂に達した。尿道に挿入されていた触手が勢いよく飛び出し、尿道口から白濁が噴き出す。精液を搾り取られる快感に、呼吸すらできないまま静音はガクガクと身体を痙攣させる。

「……っあああああああーーっ! ひいぃっ! イッたのにぃ! 今イッたのにまた搾られるぅっ! あんっ、あんぁぁーっ! おうぅぅっ! おひいぃぃっ!!」

 ただ搾精されるだけの贄となった静音だが、その表情は一片の迷いも曇りもない幸せそのものの面持ちだった。

「静音……」

 責めもてあそばれる静音を見ても、菜摘の心には恐怖も怒りも浮かばなかった。それどころか、獣欲に狂う静音の姿を美しいと思い、それと同時にそのような異常な思考をしている自分に驚きを覚えていた。

「どう? 静音ちゃん、すごく気持ちよさそうでしょ? 管魔様はその贄に応じて最も効率のいいエネルギー搾取の方法を取るの。つまり、ああいう風にオチンチンを犯されるのが静音ちゃんにとって一番幸せだってこと」
「…………」

 菜摘は言葉を返すことが出来ない。痴態を見せつけられたせいだろうか、わき起こる淫猥な感情と、不安とが混じり合った、どうにも御しがたい気分に支配されていた。

「わ、私も……ずっとこんな風に……」

 半分は不安をそのままに表に出したような、もう半分は淫欲によってもたらされた期待に満ちたような、そんな声色で菜摘は尋ねる。

「そうよ。菜摘も私も静音ちゃんも、命が尽きるまでずっと快楽を搾り取られる運命なの。しかもここは時間の概念が歪んでるから、私たちは現世にいるより何倍も長生きできるわ……そこの人みたいにね」

 穂積は、今度は菜摘の右5メートルほどの場所を指さした。

「え……」

 そこに居たのは見覚えのない女性だった。見たところ年齢は二十歳前後だろうか。静音同様に触手によって激しく犯され、恍惚の表情を浮かべながらも、全く声を上げることなく静かによがり続けている。
 女性の穴という穴からは、おそらく体内に巣くっているのであろう触手の端がはみ出すように姿を覗かせている。淫裂、肛門にとどまらず、両鼻、両耳、そしてスイカ大に肥大した乳房の頂点、これまた男性器並みに肥大した乳首の先端からも、微細な触手が束になって飛び出してきて、わさわさと揺れ動き、彼女に快楽と絶頂の痙攣を与え続けていた。

「この人……もしかして……」

 菜摘は思い当たった風につぶやく。女性が申し訳程度に羽織っている白衣に見覚えがあったのだ。袖にあしらわれた模様からして、六車神社のものに間違いなかった。

「室町時代に、六車神社で閉門の儀に失敗した巫女が居たっていう記録があるの。この人は私たちのご先祖様。何百年と時間が経つうちに生半可な刺激じゃ物足りなくなって、蟲に体中の内臓を食べられることを快楽と思うようになっちゃったのよ。声帯も食いつぶされてるから声も出せない……でも気持ちよさそうでしょ? 羨ましいと思わない?」

 心底憧れるように言って、穂積は菜摘へ向き直る。破滅的な快楽に憧れ、瞳をぎらつかせる穂積を見て、菜摘は「1年も経てばあなたもそうなるのよ」と言われているような心持ちだった。

「さあ、菜摘はどんな犯され方を望むのかしら? やっぱりお尻からお口まで貫かれるのがお気に入りなのかな? それとも……」

 穂積の言葉を遮るように、菜摘のすぐ目の前の床が大きく盛り上がった。床の盛り上がりは3つに分かれると、菜摘を三方から取り巻くように移動し、徐々にはっきりとした輪郭を形成し始めた。
 二本の足の上に乗った巨大な肉玉、そこから生える数十本の肉色の触手。菜摘が長らく目の敵にしてきた管魔の姿だった。

「か、管魔……!」
「へぇ……」

 穂積は少し驚いたというような、それでいて納得したといった風の声を漏らした。

「つまり菜摘は、もっとも憎んでいるはずの、この姿の管魔様に犯されたいと思っていたわけね。屈辱で悔し涙を流しながら快楽だけは無理矢理与えられる、という状況を心の底で願ってる。すごく屈折したマゾね」

 心の底から楽しそうに穂積は言い放つ。徐々に妹が自分と同じ存在へと変わりつつある様がたまらなく楽しいのだ。

「違……
っひゃああああああああーーーっ!」

 弱々しく発せられた拒絶の言葉は最後まで続かなかった。三体の管魔から音もなく伸びてきた肉色の触手が、菜摘の両手両足に巻き付いてその身を拘束し、同時に苛烈な愛撫を開始したのだ。

「あっ、あっ、あああああぁああーーーっ、ひうぅ、ひゃううううーーっ!」

 菜摘は全く逆らうことが出来なかった。細胞の一片まで淫猥に造り替えられた肉体の至る所へ、それも同時に人外の愛撫が加えられるのだ。一撫でしただけでイキ狂ってしまうようなその刺激を間断なく与えられ、菜摘はあっという間に制御不能の絶頂の波に飲み込まれた。

「いぐぅぅっ! ひぐ、いひゃあうぅああっ! いいっ、いうむぐぶうぅぅぅーーっ!!」

(か、体中が気持ちよすぎて……イクぅっ、何も考えられない! こんな……あぁ……またここに戻って来ちゃった……)

 ひしめき合う触手の海に火照った身体を溺れさせながら、菜摘はどこか懐かしい感覚にとらわれていた。1年前の、あの異常な初体験の日に植え付けられた火種は今や轟々と燃える淫欲の炎と化していた。
 口内に潜り込み喉を犯す触手と、肛門を押し分けて腸を犯す触手と、消化管の中に巣くった蟲とがひしめき合う。やがてその3本は互いに絡まり合い1本の綱状になると、菜摘の身体を串刺しにしたまま宙に持ち上げた。反動で菜摘の身体はぐるりと半回転し、それによって消化管内の性感帯が一斉に擦り上げられる。全身の筋肉をヒクヒクとわななかせて、菜摘の意識はさらに深いエクスタシーの極みに持ち上げられてゆく。

「ん、んむぅぅ……ふむぐぅぅ……んごほぉぉぉぉ……むぉぉ……」
(気持ちいい、気持ちいいよぉ、お姉ちゃん……お姉……)

 上下反転した視界の中で、菜摘は姉の姿を探す。穂積もまた静音や菜摘に負けないほどの痴態を晒していた。
 白衣の前をはだけ、床から生えた触手の上に巨乳を載せるような姿勢で四つんばいになっている。肥大した両の乳首を覆うように管状の触手が食いつき、肉の搾乳機となって穂積の双乳からミルクを搾り続けていた。

「あ、あああぁ……おっぱいぃ、ミルク搾られるのぉ……気持ちいいぃ……ずっと搾られっぱなしがイイのぉ……ひゃあぅ、はふぅぅ……」

 乳首からはドボドボと垂れ流すように母乳が流れ出し、穂積は常に弱い絶頂状態のまま緩みきった笑みを浮かべ続けていた。

(私はここにいるから……ずっと一緒だから……菜摘も安心していいのよ……)

 明後日の方向を向いて痴れ狂う穂積の姿を見て、何故か菜摘は姉がそう言っているように感じていた。もはや迷いも恐れもなく、快楽と安らぎだけが菜摘の心を支配していた。






「んあぁ……あ、あああぁぁーーっ! う、産まれるぅっ! また産んじゃうぅっ! お腹ぁ、オマンコ広げて出てくるうぅぅっ!! ひぐぅ、凄いぃっ、凄い凄いぃっ! イクぅぅっ! イキながら赤ちゃん産んじゃうのぉっ!!」

 びちゃびちゃというけたたましい水音とともに、大振りのスイカほどはあろうかという触手生物の幼生が産み落とされる。醜く押し広げられ赤く腫れた産道ですら敏感な性感帯と化した菜摘の身体は、もう何十度もの絶頂しながらの出産を経験していた。
 休む間もなく、広がりきった膣をさらに広げるように管魔たちの触手が潜り込む。再び絶頂に達しながら、菜摘は注ぎ込まれる新たな子種をたっぷりと受け容れていた。

「あはぁ……お腹の中ぁ、タプタプではち切れちゃうよおぉ……子宮に染み込むの気持ちいいぃ……アンッ! 動いたぁ、中の子が動くのも気持ちいいのぉ……」

 出産してなお、菜摘は妊娠していた。薄い腹肉の上から見て取れるかぎりで、彼女の子宮には触手生物の胎児が四体は存在している。彼らは子宮の内から菜摘を犯しつつ、産まれ出る機会をうかがっているのだ。こうして産み落とされた触手生物は、母である菜摘へ恩を返すかのごとく、産まれてすぐに自らの父たちと一緒に輪姦に加わるのだった。

 最初三体だった管魔の数は、菜摘の出産行動によって今は二十体を超え、もはや触手による輪姦というよりは、触手で編まれた揺りかごの中で、一人の華奢な女が絶頂感に全身を跳ね回らせているといった風だった。

 歪んだ幸せの中で、菜摘は淫らな神楽を舞い続けた。


おしまい