蟲神楽

 一人の少女が闇と向かい合っていた。
 闇は六畳ほどの部屋の中央、張り巡らされた注連縄の内側の空間に集い、球状の塊となって宙に浮いていた。
 小屋の外から回り込んできた月明かりにうっすらと照らされてもなお、黒々とした闇は光を拒んで在り続ける。
 薄明かりの中にその姿を浮かび上がらせる少女は、紫の模様が入った白い上衣、短めの紫袴、そして同じく紫の長い靴下に身を包んでいる。彼女の姿は一般的な巫女としては奇抜な服装だが、ここ六車神社の伝統的な巫女装束だった。
 本殿から少し離れたこの祓所で彼女は、神の住処にあるまじきこの闇を前にして床に座し、一心に祈り続けていた。
「――ッ!」
 目の前の闇が蠕動する気配に、巫女は短く息を飲み込んで身をこわばらせる。直後、巨大な闇の一部が分離したかと思うと、黒い塊となって彼女の身体めがけて飛来した。
「ギッ……!」
 板が軋むような鳴き声。
 手を伸ばせば届きそうなほどの間合いまで接近した闇の小塊は、三重に囲い巡らされた注連縄の上空で透明な障壁にぶつかり、床へと叩き落とされる。正体は、現世にある全ての生物とは異なる存在だった。
 外見こそ黒いコウモリといった容貌だが、天然に生きるコウモリとは明らかに異なる負のエネルギーを帯びた生命体――すなわち『魔物』だ。
 床に落ちた魔物は折れた羽根から薄紫色の体液を流し、しばらくピクピクと痙攣していたが、程なくその活動を停止し、即座に紫色の霧となって宙に散った。
「ふぅ……」
 額の汗を白衣の袖でぬぐいながら、巫女は短く安堵の溜息をつく。
 部屋の中央ではなお、巨大な球状の闇が衰えることなく黒々と渦巻き、この世のものならざる妖気を放っていた。
 闇の正体は『門』と呼ばれる。
 現世と黄泉とをつなぐ境界面である『門』は元来、盆などの死者の霊が行き来する時期にのみ現れるという。その多くは規模が小さく姿を現している時間も短いため、人々の目に触れることは滅多にない。
 だが、今回は多少事情が違っていた。
 現世と黄泉の間に存在し、本来その両方に干渉できないとされる『狭間』と呼ばれる空間がある。元々死者の霊が集いやすく、大きく成長することが多かったここ溜霊山の『門』は、その『狭間』とも接点を持ってしまっていたのだ。
 隔絶された『狭間』に棲む者たちは、新たな住処を求めて『門』を越え次々と現世へやってこようとする。さっきのコウモリはその一例だ。六車神社は今、たびたび訪れる魔物の攻撃にさらされ続けていた。
 宙に陣取る闇の澱からは、もはや激しい攻撃の意図は感じられない。だが、この『門』を隔てた先から溢れてくるむせ返りそうなほどの陰気は、先刻のコウモリもどきなど問題にならない程の、巨大で強力な魔物の存在を予感させていた。
「母さま……やっぱり私だけじゃ無理だよ……」
 注連縄の紙垂を新しいものに交換しながら、巫女は天を仰いで歯ぎしりした。
 平安初期、時の嵯峨天皇によって六車神社が建立されたそもそもの理由は、溜霊山に現れる『門』を儀式によって閉じようというものであった。『閉門の儀』と呼ばれるこの祭礼は、六車の姓を持つ処女の巫女か神職にのみ執り行う力が与えられ、魔物による被害の続出していたこの地域に、以後数百年にわたって安全をもたらしてきた。
 しかし今、彼女には『閉門の儀』を行う力が無かった。
 六車の姓を持ち、その血を引く身でありながら、三年前に起きた忌まわしい事件によって彼女はその神通力の全てを失っていたのだ。
 『門』そのものに干渉する力を持たない彼女は、神具を用いて張り巡らせた結界を、毎晩の微力な祈りによって支え、現世へ侵入しようとする魔物を食い止めることしかできなかった。
 祓所の扉を閉め、参道を横切って手水舎へ向かう。空は薄い雲に覆われはじめ、月明かりが徐々に心許なくなってきた。盆の時期に相応しい、蒸し暑く不快な夜が訪れようとしていた。
「一雨来るのかな……」
 ずぶ濡れになると厄介だ。彼女は両腕と顔に溜まった汗と埃を軽く洗い流すと、足早に水場を立ち去る。社務所はすぐそこだ。
「あれ……?」
 社務所に灯りがともっている。
 三年前に両親を失ってから、彼女には肉親がなかった。縁談はあったが全て断り、今は神職としての祭事から荘園領主としての仕事まで全てを一人でこなしている身だ。たった一人心を許した村の娘を除いては。
「静衣さま!」
 障子を開けたその向こうからお気に入りの香の匂いとともに現れたのは、彼女――六車静衣に最も安心をもたらしてくれる者の笑顔だった。
「紗雪……来てたんだ」
「お盆の間は毎日来るって約束だったじゃないですか。忘れちゃったんですか?」
「ああ……そうだったっけ……」
 きれいに掃除されて塵一つない畳の間に正座し、紗雪は「えへへ」と笑ってみせる。彼女もまた、静衣にとっての心の拠り所になることを喜びとしているのだ。
「ささ、お風呂へどうぞ。その間にお食事を用意しておきますからねー」
 紗雪が身につけている巫女装束は静衣のお下がりだ。彼女の華奢な体格からすれば少し大きいが「お揃いになるのが嬉しいから」という理由から愛用しているらしい。
 当時の農民の娘にしては珍しく、紗雪には学があり習字も達者だったので、家業が忙しくない時期にはこうして巫女として勤めてもらっているのだ。
 ともあれ、紗雪のような者が育つほどに、荘園内の農民の暮らし向きは豊かであった。領主たる六車神社が無駄な蓄財をしなかったため、租庸調全てが実質ほぼ無税だったのである。すなわち租は静衣の食い扶持のみ、庸調は神具や衣類、そしてごくまれに行われる神社の改修工事のみだった。
「静衣さま、どーしたんですかぁ? ぼーっとして……」
「……ん? うん……いつもありがと」
「そんなまた改まっちゃって、今日はちょっと変ですよぉ?」
「あはは、そうかも。ちょっと疲れたかなぁ……」
 部屋に立ちこめた麻の葉の香のせいだろうか、色々と考えるのが面倒くさくなってきた。
「なんか、眠くなってきたみたい……」
「だ、だめですよぉ……そんな、畳の上に直接寝ないでください! ああぁ、お布団が汚れちゃう……」
 乱れた衣服もそのままに静衣は床に寝ころんで、整えられた寝床へとごろごろ転がってゆく。咎める紗雪の口調も楽しげで、このやりとりを心から楽しんでいる様子だった。
「ねえ紗雪ぃ〜、ひざまくらぁ〜」
「あぁ……もう、甘えんぼさんなんだから……」
 よく干された布団にくるまって太陽の匂いを堪能しつつ、静衣はここぞとばかりに甘えてみせる。きれいに洗濯されて肌触りのよい袴越しに感じる紗雪の腿は、その体温以上に暖かいものを静衣の心にもたらしていた。
「ひゃっ! ちょ、ちょっと……だめですってば! 先にお風呂に入ってくださいよお……」
「う〜、ごはんとかお風呂より紗雪の方がいいなあ〜」
「ひゃあっ」
 紗雪の華奢な身体を布団に引きずり込み、ぎゅっと抱きしめる。
 乳臭さの残る甘い体臭、嗅ぎ慣れた衣服の木綿の匂い、部屋を満たす香の煙、さらに自分自身の汗と埃の匂いが混ざり合って、静衣は何とも言えない充足感を感じていた。
「全くもう……夜中にお腹がすいて目が覚めても知りませんからね」
 あきらめるように、しかしあくまでも楽しそうに、紗雪は静衣の求めに応じる。
「んむっ……」
 抱きすくめられた身体をさらに密着させ、紗雪は静衣に唇を重ねる。舌と舌が絡まり合い、胸と胸が密着する。白衣越しに擦れ合う乳首から甘く心地よい刺激が生まれ、二人の身体を火照らせてゆく。
「ん……はぁ……静衣さま、とっても可愛い……」
 陶然として力の抜けた腕をはだけると、丼を裏返したような大振りの乳房が露わになった。
「うふふ……うらやましいですよぉ、こーんなに立派なおっぱいして……んっ!」
「ひゃあんっ! つ、強く吸い過ぎぃっ!」
 雪のような白にうっすらと赤みが差した乳房。紗雪はその双球を優しく撫で回し、突端で薄桃色に充血し震える乳首を口に含んで強く吸い上げた。
 優しい心地よさに身を預けていた静衣だったが、突然の強い刺激に身を固くした。左右交互に吸引され、舐め回される乳首からは続けざまに快楽の電流が走り、静衣は息をつく間もないほどに甘い嬌声を上げる。
「んっ、んふぅぁっ! ソコぉ、感じすぎちゃって……ひぅっ、ひゃめ、やめてぇ」
「んぷぅ……ふふ、じゃあおっぱい舐めるのはやめにしましょうか」
 紗雪は意外にあっさりと静衣の要求を受け入れ、乳首から唇を離した。この場の淫靡な空気をそのまま反映するように、唾液がねっとりと糸を引く。
「おっぱいがダメなら、次はこっちですねぇ」
「ふぇ……?」
 紗雪は静衣に覆い被さった身体を器用に半身ほどずらすと、手際よく静衣の袴の帯を解き、ずり下ろした。行灯の薄明かりの下にさらされた陰部は火照り湿って、襦袢の裾や袴にまで薄くシミを作っていた。
「うわ、すごい……お汁がこんなに溢れて……静衣さまってばとんでもなく淫らなお身体……」
「いやあっ、そんな恥ずかしいこと言わないで……勘弁してぇ……」
「うふふふ、いいじゃないですか。あたしはそんな静衣さまが大好きなんですから」
 牝臭を放つ淫裂に顔を近づけ、紗雪は濡れた緋色の小淫唇に舌を這わせる。
「ひゃっ! そ、そんな所舐めるの!? お風呂入ってないから汚いよぉ……」
「だから入ってくださいって言ったのに……ん、ぴちゅっ! んはぁ……静衣さまのココ、すっごく蒸れてこもった素敵な匂い……あたしも興奮して来ちゃいました」
 汗と老廃物が混じった、本来不快なはずの匂い。興奮した牝の香りは鼻腔いっぱいに広がり、鼻粘膜から吸収されて、紗雪の体内に同じ興奮をもたらしてゆく。
 緩く合わさった淫裂を割り、舌先が膣口を舐める。舌表面のざらつきと膣内壁のざらつきが、互いの微細な突起を愛撫しあうように擦れ合い、その一つ一つから小さな快楽が生み出される。
 刺激に応えるように、膣壁の細胞からは分泌液が染み出して静衣の秘部を洪水に変えてゆく。紗雪は豊満な太腿の間に顔を埋めて溢れる蜜をすすり、犬が水を飲むようにぴちゃぴちゃと音を立てて舐め取った。
「む……んあぁ……紗雪ぃ……」
「んちゅっ……舐めても舐めても次から次に……じゅるっ……ん、美味しぃ……」
 鼻息を荒くし、紗雪は一心に舌を這わせる。弾力のある舌先は薄く繁る縮毛を掻き分け、淫裂の上端に位置する小豆へと到達した。
 まるで接吻するかのように、紗雪は静衣の淫核に唇を合わせる。ぷちゅぅ、と派手な吸引音がして、包皮に埋没していたその本体が吸い出された。
「ひっ、ひいいぃっ! ああっ、そこぉっ! 感じすぎていひぃぃっ!」
 充血し膨れあがった肉芽をさらに強く吸い、チロチロと舌の表面で転がす。膣口を舐められる穏やかな快楽から一転した、一種暴力的とも言える強烈な快感に静衣は身体を仰け反らせて、大きく官能の喘ぎを発した。
「んちゅっ、ん、ぷぅ……ほら静衣さまぁ、おててはそこじゃないですよぉ」
 紗雪は紅潮した顔を起こすと、涎と愛液が光る唇を拭おうともせず、静衣の腕を取る。快楽を耐えるように布団を握りしめていた両手は、紗雪の導くままに静衣のはだけた胸へと乗せられた。
「あ、ああぁ……ひきゃうううぅっ! 上手すぎぃっ! っ……!!」
 元の位置に戻った紗雪は再び吸引を始める。それに合わせるように静衣は嬌声を上げ、しがみつくように自らの豊満な両胸を握りしめた。愛撫の余韻で紅く充血した乳首が指の間で押しつぶされ、刺すような刺激が走る。三つの肉豆から同時に与えられる快楽に脊髄を満たされ、息を詰まらせながら静衣は絶頂を得た。
「――っあああぁっ! ハァッ、はあぁっ……ひ、ひやあっ! そんな、ダメえっ! 今イッたばっかりなのにぃ! いっ、ひきいぃぃっっ!!」
 達してもなお、紗雪は舌による愛撫をやめようとしない。一心不乱に淫核を吸い、舐を断続的に垂れ流した。
「ハッ、ハァッ……あああぁ……いや、いやあぁ……」
「んっ……ふふふふふ、静衣さま、すごく気持ちよさそう……遠慮なさらないでもっともっと何十回でもイッちゃって下さいね」
 半分呼吸困難のような状態に陥って弱々しく喘ぐ静衣を、紗雪は愛情いっぱいのサディスティックな目で見守る。そして再び静衣の陰部に舌を伸ばした。
「やあああああああっ!!」
「きゃっ!」
 今までほとんど無抵抗だった静衣が、突然両腕で紗雪を突き飛ばしたのだ。
「いやあっ! やめて! 父さまやめてええっ! 母さまを連れて行かないでええっ!!」
「静衣さま……?」
 突然わめき始めた静衣の様子に手が付けられず、紗雪は畳の上に座ったままきょとんとしていることしかできない。錯乱して泣き始めた静衣の顔は、血の気の引いた青白いものになっていた。
「いや、いやだよぉ……こんなことするなんて、私のこと大事じゃなかったの……? ねぇ……寂しいよぉ、怖いよぉ……」
「静衣さま、静衣さまってば……大丈夫、何もしませんから、しっかりして下さい」
 弱々しく泣きじゃくる静衣に、紗雪はしっかりとした口調で話しかけ、優しく抱きしめる。噴き出す感情に震える肩は、華奢な腕の中で徐々に落ち着きを取り戻していった。
「ううぅ、うぁ……紗雪ぃ……」
「静衣さま? 落ち着きました?」
「ごめんなさい……私ってば取り乱して……」
「いえ、そんな……あたしが悪いんです。静衣さまのことも考えずに調子に乗って……」
 今度は紗雪の方が泣き出しそうだ。
「いいえ、紗雪は悪くないわ。ただ、その……時期が時期だからちょっと……そう、ちょっと思い出しちゃっただけ……」
 三年前、六車神社の宮司であった静衣の父は『閉門の儀』が終わったその夜に、突然魔物に憑かれて発狂した。理性を失った父は静衣を犯し、母を無理矢理に連れ去り、そのまま行方知れずになった。
 本来なら神祇官に届け出なければならない事件だ。だが、魔物を抑え込むべく建てられた社の宮司たる者が、魔物に憑かれて姿をくらましたなどとなれば、それは許されがたい汚点となる。それこそ、神社そのものの存続も危ぶまれる。
 届け出るか否か迷ったまま、三年が過ぎた。
 静衣にとって神社の存続や勅命はもちろん大事だったが、それよりも心配だったのは荘園の領民だ。
 平安初期からの朝廷の威光によって持ちこたえてきた伝統ある神社が、その実体を失ったと周辺を支配する守護たちに知れたら、荘園はたちまちにして無法者の武士によって支配されてしまうだろう。それは領民達にとって、豊かな暮らしから絶望的な農奴の暮らしへの転落を意味していた。愛する紗雪とも今まで通りの関係を保つことができなくなる。
 そして何より彼女の心のどこかには、正気を取り戻した父と母が帰ってくるのではないか、という思いが依然として強く残っていたのである。
 純潔を失い、閉門の儀を行えなくなった彼女にとって、盆は苦しい闘いを強いられる時期になった。それでも、出来合いの結界の力で『門』から現れた魔物を一匹一匹討つというやり方で、過去二年どうにか役割を果たしてきたのだった。
 抱きしめられた身体をより密着させるべく、静衣は両腕を紗雪の背に回す。
「大丈夫。盆も明後日で終わるから……集ってくる死者の霊が少なくなれば、門は自然に閉じるわ。そうすればまた一年は今のまま居られる……」
 すっかり落ち着いた静衣は、自分の気を引き締めるように語る。だがその表情には、疲労の影が色濃く宿っていた。
 外はいつの間にか本降りの雨になっていた。

           *

「う〜、身体がかゆい……」
「だからお風呂に入って下さいって言ったじゃないですか! もう……」
 障子越しに差し込む朝日がまぶしい。どうやら昨夜はあのまま寝て、寝ている間に雨も上がったようだ。
「ぷっ……静衣さまったらすごい髪の毛」
「え、あ……うわぁ……」
 紗雪に笑われて頭上に手をやる。見事なまでにボサボサだ。その上、片手を上げたことによって白衣の前がはだけてしまった。そういえば半裸で寝ていることも忘れていたようだ。
「せ、静衣さま……服ぐらいちゃんと着てください……」
「何よぉ、脱がしたのは紗雪でしょ……」
 まだ半分寝ぼけた様子でブツクサつぶやきながら、静衣は白衣の胸元を合わせる。そしておぼつかない手先で、袴の紐をゆるゆるに締めた。
「じゃあ、お風呂に……」
「待ってください! いくら夏でも一晩経てば冷めてます。しっかりして下さいよぉ」
「あ、そっか……そうだよね……ごめん、せっかく沸かしてくれたのに……ええと……」
 一晩寝てもなお昨日の疲れが取れていないのか、静衣の受け答えはかなりボケボケだ。
「お風呂は私が沸かしますから。静衣さまはもう少しお休みになっていて下さい」
「うん、ありがと……」
 血のつながりはなくとも、紗雪は静衣にとって、まるで世話焼きの妹のような存在だ。安心して甘えられるこの妹の心遣いに感謝しながら、静衣はもう一度布団に横になった。

           *

「静衣さま!」
 それから数瞬と経たないうちに、引き返してきた紗雪によって再び起こされた。
「何か、外に村の人たちがたくさん集まって……」
「わかりました。すぐに行きます」
 布団から身体を半起こしにして答える。来客とあれば仕方がない、とりあえず風呂は諦めた方がよさそうだ。乱れた髪と衣服を簡単に整え、静衣は紗雪に代わって応対に出た。
 外に集まっていたのは二十人を超える男女、静衣の良く知っている領民たちだ。全員が社務所に至る道の左右に分かれて、きれいに道をつくって立っていた。
 その間から堂々と胸を張って歩いてくる見覚えのない男がいた。烏帽子に絹製の絢爛姿という、一見して貴族と分かる服装。さらには体格の良い従者二人を従えている。
 京に近いとはいえここは山間の田舎だ。珍しい来客に、村の者がみな何事かと集まってきたというわけだ。
「もし、宮司は居られるかの?」
 色白で下ぶくれの容貌に相応しい、中年男性にしては甲高い声が発せられる。
「失礼ではございますが、どちら様で……」
「儂と申す……これで良いか? ならば宮司に取り次いでもらいたいのじゃが……」
 色白の貴族は狩衣の袖で汗を拭いつつ話す。細長い声色は『儂』という一人称が全く似合わない。
「申し訳ありません。あいにくと宮司は不在でありまして……」
 あいにくも何も、三年前からずっと不在だ。とはいえ、その実態を神祇官に知られるわけにはいかない。
(何とか上手い具合に帰ってもらわないと……)
 良い考えはないものかと案じながら、静衣は話を先に進める。
「ですが、ご用向きは私が承ります」
「ほう?」
 静衣の返答に小麻呂は細長い目を少しだけ丸く見開く。そして、まるで子供を諭すような口調で続けた。
「いやしかしのう……何というかこのような由々しき問題……うーむ、其方の手に負えるとはちと思えぬのでのう。やはり神職の者でなければ……」
(まずい……)
 『由々しき問題』のところで見物人たちがざわめき始めた。どうもここでこのまま押し問答していては旗色が悪そうだ。
「こちらへどうぞ」
 ちょうど良いタイミングで奥から紗雪が顔を出した。客を入れられるように今まで部屋を片づけていたのだろう。手際がよい。
「では……皆様は一度自宅へお戻り下さい。今日のことはまた後ほど報告しますので。十枝様、こちらへ……」
 静衣のその言葉を最後に、従者を含む五人は社務所の奥へと消えてゆく。残された領民達はしばしそのままどうしたものかと留まっていたが、三々五々家路についた。

           *

 小麻呂を招き入れたのは六畳ほどの客間だ。滅多に使うことはないが、すぐに準備が整ったのは普段から紗雪がよく片づけていたためだろう。
「ほぉーっ……いやいやいやこれは有り難い。何しろ外は暑くてのう……」
 小麻呂は出された冷茶をごくごくと飲み干し、心持ちなめらかな口調で話し始める。
「して、儂らはここで宮司殿の帰りを待てば良い、ということかの?」
 一日や二日待っていても宮司は帰ってこない。どこまで、どのように説明するか――静衣は考えながら話を進めなければならなかった。
「先ほども申しましたように、ご用向きは私が承ります。宮司が留守の間は大体のことを任されておりますので」
「ふむぅ……いや、とはいえ……其方は巫女であろう?」
「いいえ、伝統的な理由でこのような格好をしていますが、私も神職です。身分と致しましては禰宜ということになるのですが……」
「む? 其方、もしや宮司の娘か!?」
「はい。申し遅れました、六車静衣と申します」
「なんと! そうかそうかそうであったか! いや、それならば話が早い。ホホホッ!」
 小麻呂の表情が一気に明るくなった。細長い目はますます細長くなり、小さな口からは品があるのか無いのか分からない、気味悪げな笑いが漏れる。
「さて……すまぬが其方と、それからお前達も……ちと席を外してくれんかの?」
 小麻呂は再び茶をすすり呼吸を整えながら、紗雪と従者に命じる。すぐに、まるで心外と言わんばかりの声が上がった。
「え――っ! 私もですか!?」
「こ、こら、紗雪……」
「あ……ええとその、ごめんなさい……でも……」
 紗雪は何か言いたいことがありげに、静衣と小麻呂へ交互にちらちらと視線を送る。
「あとでちゃんと聞かせてあげるから、ね?」
 心配してもらえるのはありがたいが、あまり無礼を働いて話をややこしくしてもらっては敵わない。静衣が小声でなだめるように諭すと、渋々ながら紗雪は立ち上がった。
「……わかりました……あの、もし危なくなったら大声で叫んでくださいね。すぐに駆けつけますから!」
「何か酷い言われ様じゃな……」
 小麻呂がすぐそばで聞いていることなど全くお構いなしの発言に、静衣は無言で苦笑いを浮かべるほかなかった。

           *

 紗雪と従者達が退室すると、部屋の中は静衣と小麻呂の二人きりとなってしまった。
 細い目で真っ直ぐに静衣を見つめ、おもむろに切り出す。
「さて、つかぬ事を訊くが……其方、魔物ではあるまいな?」
「へっ?」
 あまりの質問に静衣は思わず間の抜けた声をあげてしまう。細い目で薄笑いをしているような表情からは汲み取れないが、口振りは真剣だ。
「あるいは、魔物に憑かれたりは……」
「ご冗談を。もし私が魔物やあやかしの類なら、十枝様にお会いした途端に討たれておりましょう」
「うーむ、そうか……いや失敬失敬。そうであるな……確かに其方は紛れもなく人間じゃ。じゃが……」
(やっぱりこの人……『門』のことに気がついている……?)
 静衣は焦った。この十枝小麻呂という人物はおそらく、祓所から漂う魔物の気配に気がついているのだろう。陰陽師なのだからそれも当然なのだろうが。
「この社に溜まりし妖気、ここに住む者がそれについて何も知らぬとは思えぬ」
(しらを切って帰ってもらうのは無理か……)
 静衣の心に動揺が走る。動揺はそのまま表情に現れ、小麻呂へ肯定の意を伝えていた。
「やはり訳ありのようじゃの……いや、近ごろ都の貴族たちの間で噂になっておるのじゃよ。六車の社が魔物の手に落ちたとか、あるいは宮司が魔物に心を売ったとか、はたまた魔物を飼い慣らして淫行に耽っておるとか……」
「そ、そんな! 私どもは決してそのようなことは……」
「まあ、皆も本気で言っておるわけではあるまい」
 残り少ない茶を、ずずっ、と飲み干し一息つくと、小麻呂は身を乗り出して畳みかけるように語り始めた。
「しかしのう、其方がお父上からどのように聞かされていたか知らぬが、六車神社は破魔の分野では結構な名門なのじゃよ。そこでの不祥事は、神道に関わる者全てにとって避けたいものじゃ」
「心得て……おります……」
 だからこそこれまで一人でひっそりと辛い戦いに耐えてきたのだ。うつむく静衣は、今や小麻呂の目を直視することができなくなっていた。
「ホホホッ、そんなに心配せずともよい。儂は其方の味方じゃよ。よいか? 事を穏便に収めたいのは儂とて同じ……どうか詳しいことを話してくれぬかのう?」
(良かった……この人は味方だっだ。この人に頼れば、一人で先の見えない戦いを続けなくて済むんだ)
 そんな思いが起こると同時に、甲高い小麻呂の声が不思議と不快なものでなくなってゆく。張りつめていた気持ちがほぐれ、これまで堪えていた涙が次々と溢れ始める。静衣は嗚咽が漏れないよう、乱れた呼吸の合間合間に言葉を挟み込んで答えた。
「全てを……お話し……申し上げます……」

           *

「あっ、十枝様……あの、お話しというのはもう……」
 別室で待っていた紗雪と従者の前に小麻呂が姿を現した。
「うむ……済まぬがもう一仕事出来てしまったのでな。今しばらく静衣どのを借りるぞよ」
 静衣の姿は見あたらない。紗雪は不安になって尋ねた。
「そ、それで静衣さまは……」
「先に行っておる。危ないから其方は来てはならぬそうじゃ。すまぬが儂としても、祈祷の邪魔をしてもらっては困るからの」
「……では、今からお祓いを?」
 邪魔者扱いされて不機嫌そうな顔を一瞬見せた紗雪だったが、それはすぐに静衣の体調を案じる表情に変わった。こんなことなら昨晩、無理にでも夕食を食べさせておくのだった、お風呂にも入ってもらうべきだった、もっと早く寝かせておくべきだった。様々な心配事が脳裏を駆けめぐる。
「ホホッ、其方のように心配してくれる者がいて静衣どのは幸せじゃのう……じゃがしかし、彼女は強いお人じゃ。信じて待つのも大切な事ぞ?」
「はぁ……」
 それだけ言うと小麻呂は踵を返し、祓所の方へと立ち去っていった。紗雪はその背中を、どこか納得のいかない思いで見送っていた。

           *

「ふむ……なるほどなるほど、これが『門』か。異界のモノが混ざった空気、沸き出す魔物の気配、集まる死者の霊……確かに文献の通りじゃな」
 注連縄の際に立ち、小麻呂は宙に浮いた闇の塊をしげしげと眺める。忌々しさよりも、どこか未知の存在に対する好奇心のようなものを感じさせる口調だ。静衣は少し不安になった。
「私の力不足で、ここまで拡大させてしまいました……」
 忌々しげに闇を睨み、静衣は唇を噛みしめる。恥部を見られる思いだ。
「どうやら、のんびりと話し込んでいる時間も無さそうじゃの。『門』の向こうで巨大な魔の気配が膨れあがって来ておる」
「管魔……!」
「左様。遙か昔、平安の遷都から間もない嵯峨天皇の世に突如現れ、その治世を砕かんとした異形の存在じゃ。六車神社がその再来に備えて建立されたことは知っておろう?」
 静衣はさらに強く唇を噛んだ。己の一族に与えられた使命、それを自分が全うしていないことを改めて指摘された思いだ。
「いやいやいや、儂はそなたを責めておるのではない。過去を悔いても仕方なかろう。それよりも大事なのは今日、これからであるぞ?」
「心得ております」
「では、今一度説明いたそうかの。まず、儂の式神が其方の『気』を呼び起こす。その『気』を以てして、管魔を現世側へ誘い出す。其方に気を取られている隙を衝き、儂が全力をもって管魔を討つ」
 小麻呂の立てた作戦はごく単純で、不意を衝けば管魔を葬ることが出来るだけの能力を小麻呂が持っている、という仮定に基づくものだ。
 管魔が恐るべき存在だと知っていてなお自信満々で居られる。それだけの力をこの人は本当に持っているのか? ただの自信家ではないのか?
(大丈夫、大丈夫、大丈夫……)
 脳裏に浮いた疑念と不安を必死にうち消すべく、静衣は胸に両手を当てて大きく深呼吸した。
 やや厚手の白衣越しに自分の鼓動と胸の柔らかさを感じる。脱いでくるように言われたので襦袢は身につけていない。そういえば何故そんなことを命じられたのだろう? 小さな疑問を抱えたまま、静衣は自ら作った結界の中へ足を踏み入れた。
「念 均破羅 依内是異 斤汰訶 須宜陀 娑婆訶……」
 小麻呂の唱える力ある言葉――言霊に導かれて、彼の身につける狩衣の袖が大きく膨れあがる。程なくしてそれは、布の色と同じく白い、二体の影となって衣服から分離し、宙を舞って、結界の中で待つ静衣の周囲をぐるぐると取り巻き始めた。
 始めて目にする式神に、静衣は無言のまま戸惑うような表情を見せる。そんな彼女の心の動きなど全く介さぬ様子で、白い影はその目的に合致するよう、その形状を変化させてゆく。
「む、蟲……!?」
 凝縮した影がとった形は白い筒の束ともいうべき外観であった。まるで双子葉類の根のように、中央の太い棒から全方向へ側枝が伸び、『無数のトゲが付いた棒』といった形状を作り出す。
 白く長いトゲの一本一本はおおむね半寸ほどの直径を持った筒状で、表面は全て半透明の繊毛で覆われていた。触角と口までついて、さながら巨大な白い毛虫といった容貌だ。
(気持ち悪い……)
 全長二尺ほどの円柱状の本体にびっしりと毛が生えそろっているその様は、毛虫やゲジゲジのような多足類の身体を思わせる。不気味なその姿に、静衣は軽く吐き気を催した。
「蟲などではない。姿に馴染めずとも其奴らは儂の式神じゃ。決して危害は加えぬゆえ、心静かに……」
「は、はい……」
 諭されて返事はしたものの、このような異形の生物を目の前にしてはそう簡単に落ち着くことなどできない。とりあえず、驚きのためにほとんど止まっていた呼吸を再開するべく、静衣はぎこちなく息を吐いた。
「……うひゃうぅっ!?」
 その瞬間を狙っていたかのように、二匹の式神は宙を素早く這い、それぞれ静衣の胸元と背中へ滑り込んできた。
 感触は、まさにナメクジそのもの。ねっとりと粘度の高い液体で覆われた体表面が、肌に吸い付くように密着し、ひんやりとした感触とともに静衣の体温を奪う。
 得体の知れない不快感に総毛立ち、青くなる静衣。その白衣と身体の間で窮屈そうに、式神たちはその異形の肉体を延々とくねらせた。
「ひいいぃぃ、いやっ、何、気持ち悪いぃっ! ぶよぶよして、せ、背中ああぁっ! あううぅっ! お、お戯れを! 十枝様、こ、これはひぃぃっ!?」
 トゲと呼ぶには柔らかすぎる、短い触手と言うべき分枝組織が間断なく、キメの細かい静衣の柔肌を舐めるように撫で擦る。
 背中に入り込んだ式神は、背筋のくぼみに沿ってゆっくりと回転しながら上下に這い、白い肌に分泌液を塗りつけてヌルヌルに濡らしてゆく。触手よりもさらに柔らかく細かい繊毛が、毛穴の一つ一つにまで入り込んで、老廃物をこそぎ落とし、粘液を擦り込む。
 肌が直接感じる触覚こそ柔らかい軟体生物のものだが、その実態は経絡を強烈に刺激するくすぐり責めだった。
「徒しておるのじゃ」
「いぅぁ、あっ、ひいぁぁっ! おなか、くすぐったひいぃっ! ひゃっ、ひゃああっ! やめてぇ、許して、これ、取ってええぇっ! ひっ、ひゃめひぃいっ!」
(苦しいっ! 息が出来ない助けてえっ!!)
 二匹の式神は触手を自在に操り、静衣の全身を同時に責め始めた。粘液をたっぷりと帯びた繊毛が、首筋から耳を舐め回す。束になった触手が脇に吸い付き、その内で振動する繊毛が敏感な神経をくすぐる。
 胸に比べてかなり慎ましやかな腰回りも、脇腹から下腹にかけてぐるりと取り巻いた式神がくすぐり、腹筋が攣るほどの刺激を与える。
「ホホホッ、たとえ掴むことが出来たとしても、人の力では此奴等を引き剥がすことは出来ぬぞ?」
「あー、ひいぃぃっ! いきひぃぃっ! ひゃめ、やめへぇ、このぉおひぃっ! い、いああっ!」
 ドサリと派手な音を立てて、静衣は仰向けに倒れ込む。そして自分の身体を責め立てる式神を引きはがそうと、半狂乱になって捕まえにかかった。だが式神は、その見た目からは信じられないほどの速さで彼女の体表を這い、常に静衣の手を逃れながらくすぐり責めを続行するのだ。
 ブヨブヨの不快感と激しいくすぐりが相まって、静衣は完全に呼吸困難に陥っていた。吸うことも吐くこともままならなくなり、意識が遠くなる。そう思ったすぐ後だった。
「んはああああぁぁ――っ!」
 もの凄い声が出た。静衣はそれが自分の発したものであることを理解するのに数瞬、自分が何をされたかを理解するのにまた数瞬を要した。
「ふ……ぇ……?」
(なに……? 今の……急にビリッとしたような……)
 全身へのくすぐり責めが一気に止んだ直後、両乳の上に小山のごとく覆い被さった式神が、両の乳首を同時に舐めたのだ。
 痙攣と呼吸困難の苦しみに代わって、突然与えられた性的な快楽。それはかつて味わったことのない、それこそ紗雪の懸命の奉仕でも実現できないであろうほどの、強力かつ甘美な快楽だった。
「ど、どぉして……こんな……あ、ひゃうぅぁっ! こんなあー、あ、あああっ……」
 戸惑いの声を発するその身体に追い打ちがかかる。茹ばれ、柔らかな繊毛の刺激を、それこそ乳腺の入口に至るまで全ての皮膚表面で快楽として享受した。
 制御のできない快楽に、静衣の発する言葉はほとんど意味を為さなくなる。くすぐられている時は青かった顔色が一気に紅潮し、涙を浮かべた目はその焦点が怪しくなり、緩んだ口許からは小さく涎が垂れる。
「と……十枝様ぁ……なにゆえこのような……わ、私の身体は……」
「うむ。上手くいったようじゃ。さあ、これからが本番ぞ。其方の発する淫気をもって管魔を呼び寄せるのじゃ!」
「い、淫気……?」
「左様。女性が現世に干渉するのも、この淫気を得んがため……」
「そ、そんなこと聞いてなあっひいいいいいいいぃぃぃ!!」
 火照った脳で説明に聞き入っていたところに、さらに強い刺激が加わる。乳首をゴシゴシと洗うように運動していた繊毛のうちの二本が、細いままながら長く成長し乳頭から真っ直ぐに両の乳首の中へ貫入したのだ。
 肉を貫かれる苦痛は不思議と少なく、代わりに小さな落雷が起こったかのような激しい快感が乳首に生まれた。
「ホホホッ、効いておるな。如何じゃ? 乳首を内から犯される感覚は格別のものじゃろう?」
「あっ、あ――っ!! ああぁっ! ひう、ひうぅっ!! ぎうううぅぅぅっ!!」
 乳腺を押し広げるように乳首の中へ貫入した繊毛触手は、その細い体をグリグリと捻り、周囲の組織に激しい刺激を与えながら奥へと突き進む。激痛と言えるその感覚も、混線を起こした現在の静衣の脳にとっては、ずば抜けて甘美な快楽でしかなかった。必死に正気を保とうとするかのように、静衣は床に爪を立てて、獣のような声を発し大きくのけ反った。
「ホホホホッ、かような快楽おしく見えてこぬか?」
 仰向けに寝転がり、快楽に震える静衣を見下ろし、小麻呂は悠然と語りかける。
「それとも、今は己の快楽を貪るのに忙しくてそれどころではないかの? 何せ今の其方は全身の経絡を繋ぎ変えられ、少々の苦痛は全て快楽へと変わってしまう身体じゃからのう」
「け、経絡って……その、最初に……」
 惚けた頭で必死に情報を整理する。何ということか、儀式が始まって一刻と経たないうちに静衣の身体は、不気味な軟体生物に犯されて喜ぶ狂った肉体へ堕とされてしまったのだ。
「あ、ああぁ……ああぁ……」
 正常な人間の感覚を失ったショックと、正常な人間では決して得られない快楽への期待が混じり合い、ぶるぶると震えながら静衣は意味を為さない呻きを吐いた。
「ホッホホホ、身体は堕ちたが心はまだせめぎ合いが続いておるか……じゃが、其方はもう、心にも浸食を受けておる。此奴等がそなたの肌に塗り続けておる粘液、これがまた変わった薬効を持っておってのう……」
「え……」
 緊張に固まった首をわずかに動かし、静衣は粘液の塗られた箇所を確認する。やや生臭い匂いを放つその液体は、ほぼ全身の皮膚にタップリと付着し浸透していた。
「媚薬じゃの……そういったモノが数種混合されておる」
「うそ……うそよぉ……そんな、そんなぁ……」
 全身の筋肉を緊張させて必死に現実を拒んできた、その目が絶望に見開かれる。淫蕩に耽ることしか叶わぬ身体にされ、心の箍へと成り果てる――
「人外の快楽、受け容れる覚悟は出来たかの? ホホッ……では、気を遣ってしまうがよい!」
 小麻呂がそう命じると、胸を責めていなかったもう一匹の式神が跳ねるように這い始める。式神は紫袴の脇から中に入ると、すっかり発情しきって攻撃を待ちわびるように濡れ果てた淫裂へと這い進む。そして、びっしり宿った繊毛を全て擦りつけるように、ずるりと一回股間を撫でた。
「ひゃああああああああ――っ!!」
 生理的に漏れ出たものの中に、何かから解放される喜びのようなトーンが混ざった、そんな清々しい嬌声を上げて、静衣は快楽の頂点に達した。
(と、溶けるっ! 己の魂が溶けてなくな……)
「あーっ、はあぁーっ、はぁーっ……」
 瞳孔の開きかけた眼で宙を凝視し、呼吸を整える。自失感の中で感じた快楽が徐々に薄れ、再び現実へ引き戻される。自我を取り戻す安心感とは裏腹に、静衣の心の内は早くも、再び忘我の境地に追いやられたいという気持ちに支配されかかっていた。
(こんな……異形の者にいいようにされて……でも……)
 媚薬によって植え付けられた欲求が、この生涯初めて味わう桁違いの快楽を再び寄越せと身体を疼んでいた。
 巣くい始めた新たな感情を振り払うように、静衣はギュッと口元に力を込める。そして、今は沈黙する式神を刺激しないよう、身体を硬直させたままゆっくりと口を開いた。
「……わ、私を謀った……どうして……」
「なんとなんと、謀ったとは酷い言い様じゃ。それもこれも全て管魔をおびき寄せるための儀式じゃと申したではないか……忘れたか?」
「くぅぅ……で、でも……これじゃ私の……私の方が……先にっ……」
「ふぅむ……しかしながら、まだ足りぬか……」
 ギリギリの心理状態を訴える静衣をほとんど無視して、小麻呂は『門』を睨む。闇は変わらず邪な気を保ったまま動かない。小麻呂の言うとおり、管魔を呼び出すにはまだまだ淫気が足りないのだろう。
 小麻呂は闇から床へ視線を転じ、再び静衣を見下ろす。そして口許をニイッと歪め、嗜虐的な笑みを投げかけた。
「ならば、其方の身をもってさらなる淫気を生んでもらう他あるまい。ホホホホホ!」
「ひっ……!」
(いやあっ……怖い、怖い怖い怖いっ! また、また自分が無くなっちゃうっ!)
 甲高い笑いに合わせて、式神たちが踊るように活動を再開する。
 まずはじめに、びちゃびちゃっと水音を発したかと思うと、乳管洞深く打ち込まれていた触手の胴体がゆっくりと引き抜かれた。
「く……ふあ、あっ……んっ……くぅっ……」
 食いしばる歯の間から甘い喘ぎが漏れる。弾力の強い繊毛が、敏感きわまりない乳洞孔の内壁を一寸一寸ジリジリとこそぎ、取り繕われた薄っぺらい抵抗の意思をはぎ取ってゆく。
 たった一度の絶頂によって心の底に植え付けられた淫欲が、出来たてのカサブタを一層ずつ剥ぐような快楽を伴って徐々にむき出しにされてゆく。
「はぁっ……ふっ、くぅん……あ、あぁ……」
 不自然なほどに抉られた乳管洞は赤黒く充血しながらも、くわえ込んだ触手をギュルギュル締めるように痙攣する。そこで生まれた新たな快楽が、静衣の神経へ強制的に作り物の幸福感を送り込んでくる。
(嘘よ……ちっとも嬉しくなんかない……はずなのに……どうして……)
 まるで不可視の糸に操られているかのような、意思に関係なく快楽を求めてうごめく自分の身体に、静衣は言い様のない恐怖を覚えた。
「ホホッ、如何した? そのようにつまらぬ抵抗などせず、身を委ねて良いのじゃぞ?」
 あざけるような言葉が、必死に均衡を保とうとする精神にのしかかる。それに抗弁しようと静衣が口を開いた瞬間を狙ったかのように、触手達は無慈悲にも両乳首の奥深くへと戻っていった。
「――!! んひいぃぃいっ!」
 神経を直接撫でられるような刺激に、喉の奥が押しつぶされたような悲鳴が漏れる。握りしめていた上衣の裾から手を離すと、静衣は一度気を遣った時と同じ姿勢に反り返り、身体を支えるように床に爪を立てた。
「あ――っ! あーっ! 奥うっ! 裂けるっ! 壊れ……ぎうぅっ!!」
 乳首を押し裂かんばかりの激しい挿入、そして次々と襲い来る激痛と区別がつかない快感に、静衣は自分の抵抗の意思がいかにちっぽけなものであったかを思い知らされていた。
 ならばいっそのこと、小麻呂の言うとおり己の意思など放棄して、与えられる快楽に身を任せてしまおうか。そんな考えが生まれた途端、身体の内にくすぶっていた淫欲と身体の外から与えられる快楽とが、割符の一致するかのようにぴたりとかみ合った。
「くあああぁ――っ、あっ、あ――っ! 凄ぉ、お……おっぱいがぁ、中から壊されるぅっ! ひっ、いいぃっ! だめぇ、凄い気持ちいいぃっ!!」
「そう! そうじゃ、良きかな良きかな! ホホホホッ、そうして淫らな衝動に身を委ね、もっと淫蕩なる気を発するのじゃ!」
 叫び暴れる度にぷるぷるとたわむ乳房の上で、式神の白い身体が悠々と揺れる。視界の下端にその様を捕らえながら、静衣は自分の意識がまた忘我の域に追いやられているのを感じていた。
 卑しく淫らな身体にされて、異形の式神に胸を犯され、惨めに床に這いつくばって、あまつさえそれを気持ちよいと感じ、声にまで出している……
 静衣は、弄ばれることを悦びとする被虐の悦楽に浸りきっっていた。
「ホッホホ、その様では胸だけでは物足りなかろう? さてさて、いかが致そうか……『豆磨き』などどうかの? ホホッ!」
「あ、ふぅぁ……ま、豆ぇ……?」
(豆磨き……豆……豆ってまさか……)
 混線した思考の中で、息絶え絶えになりながら尋ね返す。
 だが、質問の必要はなかった。小麻呂の言葉を聞き取って、式神たちが『豆磨き』に取りかかったのだ。
「んっ……んあああああっ!! ひぃっ! ぬるぬるしたのが、あ――っ! あっ、ああっ!」
 変化は袴の下で起こった。陰部をすっぽりと覆っていた式神が不意に脈動し始めたかと思うと、多足類の脚を思わせる触手が淫核を剥いたのだ。
 隙間を埋めるように押しつけられてくる無数の柔毛が、異常なほどに紅く充血した淫核をゴシゴシと撫で擦る。既に皮膚から十二分に媚薬を吸収し、愛撫を期待して疼きに耐えてきたその淫らな豆は、当然のように悦び震えて見る間にその体積を膨らませてゆく。
「こっ、こすられへぇ、えあああああっ! 磨きっ……てぇ、こん、なあぁっ……」
(離れて! 引きはがさないと……頭おかしくなっちゃうっ!)
 顔を真っ赤にし、大慌てで静衣は袴の裾をたくし上げにかかる。二度三度、掴み損ねて宙を掻いた後、白く豊満な太腿が露出した。その付け根、股関節から下腹までべっとりと覆い被さる真っ白な式神の身体に指がかかる。
(……っ!! 剥がれない……!)
 式神の体表に生えた触手は吸盤と化し、内腿と下腹の柔らかな皮膚にピッタリと貼り付いていた。生半可な力ではとても剥がせそうにない。外見にはただ穏やかに軟体生物が留まっているだけだというのに、その体の下では休む間もなくうごめく触手によって敏感な淫核がなぶられ続けているのだ。手が届くのに止められないそのもどかしさと切なさが、静衣の被虐心をさらに加速させた。
「ホホホホッ! 磨け磨け、玉を磨くように丹念に丹念にのう……気持ちよかろう?」
「ハアッ、あっ、剥がれぇ……えぅんっ、んあっ、ああっ!!」
(ああっ、もうどうしようもない……このままイカされちゃう……!)
 微動だにしない式神を両手で押さえつけたまま、静衣は観念したように目をつむる。トドメを刺すように、双乳へめり込んだ触手がぐるりと乳管を抉った。
「あっ……ックウウウウッ!!」
 間断なく淫核を磨かれる快感に、乳腺を内から磨かれる快感が重なり合う。三点から同時に発する信号が体中の細胞を賦活させる。火照った身体の隅々に染み渡る快楽を全身で味わうように、静衣は絶頂に達した。
「はぁーっ、はぁーっ……あぁっ、いあ、いやあ……そんな、さっき……にぃっ……」
 式神は責めの手を休めない。さながら好物の葉にむしゃぶりつく芋虫のように、がっちりと静衣の胸と股間にしがみついたまま、ヒクヒクと小さく脈動し続ける。
 白い芋虫の下では、三つの豆が常時磨かれ、気が狂わんばかりの快楽を生み続けていた。
(またイクッ! さっきイッったばかりなのに……怖い、止められない、止められないよぉ……ああ、でも身体が火照ったままで……気持ちよすぎて自分が抑えられないっ……)
 静衣の脳裏でまた一本線が切れた。堅く瞑っていた目を開いて天井を見つめる。
 快感のあまりに緩んだ涙腺からは涙が溢れ、口の端からは涎が垂れる。歪んだ視界と同様、不安定に揺れていた心の内が徐々に一つの感情に染められてゆく。瞳は悦びに光り、享楽がり声が発せられる。
「すごぉぃぃ……またイクぅっ! あんっ、ああんっ、お豆が、淫らですごいのぉっ! いちゃうぅ、頭バカになっちゃふぅぅっ! すごぃぃ!」
 言葉にしたことで拍車がかかったか、静衣は立て続けに気を遣り始めた。一息吐くごとに一度ほどの間隔で、溜まった快楽を爆発させる。淫蜜がどくどくと溢れ、ジュルジュルと下品な音とともに式神の身体に啜り取られてゆく。
「あふぅんっ……くぅ、くぅんっ! イイッ! お豆気持ちいいよぉ、おっぱいほじられるのも最高ぉ……もっとしてぇっ!」
「ホホホッ、浅ましきかな浅ましきかな! 其方、本当に神職か? まるで発情した牝犬ではないか!」
 楽しげに笑う小麻呂の言葉に、静衣は一瞬だけ辛そうな表情を見せた。だがそれもすぐに、湧水のごとく溢れ出る淫らな感情に押し流されてあっさりとかき消されてしまう。脳に残ったのは『牝犬』という被虐心を煽る言葉だけだ。
「あ……あうぅ……牝犬ぅ、牝犬イキますっ!! お豆いじくられてイクぅっ!!」
(こんな、蟲みたいなヤツに何度も何度もイカされて……でもぉ、抵抗なんてもう出来ないよぉ……)
 宝石を研磨するように、丁寧にブラッシングされる淫核は、式神が分泌する媚薬と静衣自身が垂れ流した淫蜜にまみれ、責めを受け続けるのを喜ぶかのようにぬめり膨張していた。
 もう二つの豆――真ん中を触手に穿されていた。
 白い式神は、まるで積雪した連山のように双乳へ覆い被さり、無数の触手を乳首へと這わせる。乳白色の微細な触手たちは、硬くしこる乳首へ取り巻くように群がり、淫核と同様に丹念に磨く。それに加えて、乳腺奥深くに突き刺さった触手が、グプグプと卑猥な音を立て、ねじくれながら前後運動を繰り返し、乳房へ快楽の波を送り込んでいるのだ。内外からの執拗な責めに、挟みつけられた乳首の神経は悦びの悲鳴を上げた。
「――っ! っくぁっ! あっ! ひゃああああ――っ! ヒクウゥぅっ! いぐぅっ! ひぃっ、イイッ!!」
(ああ、なんて、なんて気持ちいいのぉ……息をする間も無いのに気持ちよすぎて苦しくないなんて……)
 ほとんど剥き出しといった様の快楽神経を撫でられ、達し、撫でられ、達しを繰り返す。もはや静衣の身体は、絶頂の波がおさまらないうちに次の絶頂が始まるという『イキっぱなし』の状態に陥っていた。
「はふっ、ひぅぅ、くううぅっ、あっ、あっ、ああぁっ……」
「フム……反応が薄いのう……さてはこの様な責めでは生ぬるい、か」
 朦朧とした意識の中で必死に呼吸を整えようと試みる静衣に、小麻呂は冷笑を浮かべて語りかける。
「ちっ、があぁはあっ!! はひぃっ! くぅっ!」
(違うっ、違うのっ! 息がうまくできないから……)
 気力を振り絞って必死に否定しようとする静衣だが、自身の喘ぎ声に呑まれてほとんど意味のある言葉が出せない。
「さてさて、いかが致そうか……むうぅ、こうなっては少々痛くても構わぬかの?」
(この人……絶対分かってて言ってる! わざと聞いてないフリをしてる!)
 小麻呂はとぼけた口調で問いかけながら、その目を嗜虐的な悦びにギラギラ輝かせる。嬉しげな口元を隠すように印を組むと、式神に指令を与えるべくボソボソと言霊を唱えた。
「那弐臥出符 礼陀佛訶 矢須狗那 壱与 娑婆訶!」
 力ある言葉に導かれて式神がその姿を変えはじめる。淫核と乳首を磨く動作は緩やかに停止し、代わりに皮膚との接触面が変形し波打ち始める。
「うぅ……うぁ……あぁ、あぁ……」
(や、やめてえっ! これ以上無茶されたら戻れない! 頭がおかしくなって戻れないよ……怖い、怖いっ!)
 剥かれた淫核の側面にチクリという違和感が走った。ほぼ同時に、触手の侵入を許した乳房の奥からも似たような痛みが生じる。その正体が何かを考える間もなく、激痛が静衣の身体を痛烈に見舞った。
「んぎいいいいああああああああ――っ!!」
 淫核が横一文字に貫かれていた。針のように堅く鋭く変形した触手の一本が、充血した海綿状組織に突き刺さり、貫通したのだ。
 最初は目に見えるかどうかといったほどの太さだった針は、見る間に畳針ほどの太さに膨れ、周囲の細胞を押しつぶしながら神経に激痛を送り込んでゆく。
「ひい――っ、ひい――っ! ひああぁぁ……」
 激痛のあまり弛緩した尿道からチョロチョロと黄金色の液体が漏れた。流れ出た尿は淫蜜と混ざり、式神と肌の間を埋めるように満たしてゆく。
(こんな……いくら痛いからっておしっこ漏らしちゃうなんて……どうしようどうしよう……恥ずかしいよぉ……止めなきゃ、止め……)
「んいぃっ! い、いだいぃっ! 染みっ、いあああっ!」
 淫蜜と尿の混合物は、式神にとっては新たなご馳走だった。変形せず柔らかいままだった触手が、餌をむさぼるように啜りにかかる。
 開いてしまった尿道の内壁を触手が撫で、ズルズルと下品な音を立てて舐める。体外へぶちまけられた尿は、栄養分を吸収する小腸の内壁のようにゾワゾワとうごめく触手達によって、吸い取られてゆく。
「なんと失禁しおったか! そうかそうか、それ程までに喜ばれるとはのう……」
「あああぁ……そんぁ、な、舐めぇ……おしっこひぐうぅっ!」
 塗りたくられる尿を追って、触手の先端は出来たばかりの淫核の傷口にまで侵入する。押し広げられた傷口に尿の塩分が染み、生まれた苦痛と快楽がまた失禁を止めようという意思を奪い去ってゆく。
(おしっこが……傷に染みて痛いのに、痛いのにすごく気持ちいい……)
 愛撫によって再び激しく分泌された淫蜜が、尿と混ざって股間を覆う式神の体の端から染み出した。鼻をつく尿素の匂いと膣分泌液独特の甘酸っぱい匂いが混合し、何とも淫らな牝臭を放つ。溢れた尿は押しつぶされた柔らかな尻肉の下に流れ込み、袴の背面に失禁跡を作っていた。
「う……うぁんっ……やめ、て……な……かにぃっくぅっ……!」
 表皮を流れる尿に導かれるように、式神はその姿を柔軟に変え淫唇を押し割るように這う。淫核ほどではないが、相当に敏感になった淫唇がめくり返され、膣の入口と一緒にその裏をも舐め回される。粘膜を連続的に犯される快楽によって、静衣は小さく二度三度絶頂に達する。
 触手達は、絶えず痙攣して分泌液を撒き散らす牝の粘膜を浸食しながら、とうとう膣口をかっぽりとこじ開けた。そして、最も侵入を拒まれてしかるべきその箇所へ、徐々に徐々にその体を滑り込ませてゆく。
(犯される……私、犯されるんだ……きっともう我慢も抵抗も出来ないよね……子宮の奥まで掻き回されて、はしたなく声を上げて、何度も何度もイッちゃうんだ……)
 静衣の背筋にゾクゾクと粟立つ震えが走る。震えを起こしているのは今や恐怖ではなく、恍惚の中にあってなお燃えくすぶる黒い期待感だった。
「んあっ……!! ……………………!!」
 踏み込まれてはならないはずの聖域へ、無慈悲にも柔毛触手の頭が押し込まれてゆく。静衣の腹の底から広がったのは、穢されたという絶望感でもなく、異物挿入による不快感でもなく、ただただ深い深い快楽のみだった。
 声を失い、笑ったような表情で顔面を硬直させたまま、静衣は一種暴力的な絶頂感を必死に受け止める。
(い、今少しでも動いたら……イクのが止まらなくなって……死ぬ! 狂い死んじゃう! 止めないと、止めっ……)
「んひいいい――っ!! ひいぃ――っ! ひいーっ!!」
 肉の隘道をびっちりと満たした柔毛触手がぐるりと半回転する。擬似死の感覚への恐怖でかろうじて支えられていた静衣の理性は、その一擦りによって跡形もなく消し飛んだ。
「んがあああ――っ! ひぐうぅっ!! いぐっ! イクイクううぅっ!! ああぁんっ! アンッ! ひっ、またあっ! まだイクのぉっ! きゃうんんんっ!!」
 膣内の触手は、まるで『豆磨き』の延長のように膣の内部を掃除してゆく。淡々としたブラッシングは愛液をこそぎ、そこへ媚薬が塗り広げられ、また新たな愛液が今度はより激しく分泌される。
 繊毛は内襞のシワに沿って流れ、長年の間にわたって筋状に堆積していた恥垢を剥いで、その下に隠れていた細胞へ刺激を送り込みつつ媚薬を塗り込んでゆく。
「あ――、あううぁああ――、あんぁぁ――っ! いくうぅ……ひぐ、いぐうううううううぅっ!!」
(イクッ!! イクイクッ!! 頭の中が真っ白になって……何も考えられ……)



続きは同人誌にて!!(えー!)

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