淫神楽〜第2話〜



 弾かれたように立ち上がった菜摘は、真っ直ぐに悲鳴のした方へ駆け出す。突っ掛けた草履が脱げそうになるのを防ぎながら、全力で緩斜面を走り下りた。
 斜面を降り切って急カーブを曲がる。今まで山肌の死角になって見えなかった道が姿を現す。そこで見た光景に菜摘は思わず息を呑んだ。

「菜摘ぃ……」

 脅えて青くなり、弱々しく声を発する静音は、空中に捕えられていた。伸ばせば20mはありそうな長い肌色の触手がその華奢な身体をぐるぐる巻きにして、数メートルの上空へ持ち上げているのだ。強く巻き付く触手に肺を圧迫されて、静音は苦しげな悲鳴を上げる。
 そして、触手を操る主はそのすぐ側にどっしりとたたずんでいた。その姿は1年前のまま、忘れようにも忘れられないあの陵辱主の姿だ。

「いつの間に……」

 ちゃんと見張っていたはずなのに――
 いつの間に「門」を抜けてきたのか、そもそもいつ「門」が現れたというのか。あるいは六車神社の祭壇にのみ「門」が現れるというのが思い違いだったのか。
 友人が襲われるに至るまで、この魔の存在に気がつかなかった己の不甲斐なさに、菜摘は歯噛みした。

 グブブブブブ――管魔が笑った。1年前に聞いたあの嘲るような笑いそのままだ。かつて狩り損ねた獲物がノコノコと犯されにやってきたのだ。笑わずには居られない。

「このっ……」

 侮蔑の笑いを向けられて、かっと頭に血が上る。1年前の陵辱の記憶。姉の手がかりをようやく見つけたという歓喜。様々な感情がいっぺんにわき起こった。

「いや……怖いよ……助け……て……」
「……!! 待ってて静音、今助ける!」

 静音の小さな呻きに我に返った菜摘は、あわてて駆け寄りながら腰元に手をやった。呪符を取り出すような動作に、一瞬管魔の身体が緊張する。
 だが今の菜摘は、呪符もなければ魔を祓うための御幣も持っていない。そもそも魔物と戦ったことなど無い菜摘は、それらの使い方を全く知らない。

 菜摘の取った行動は意外なものだった。彼女は胸の少し下で結んだ袴の帯に指をかけると、その結び目を一気に解いたのだ。
 紅い袴が音もなく地面に落ち、小さな布溜まりに変わる。その赤と好対照を為す白い太腿が露わになり、夕日に映えた。その健康的な柔らかい太腿を締め上げるように、二本の黒い革ベルトが食い込んでいる。ベルトに留められていた黒く無骨な物体に菜摘は右手を掛け、抜き放った。

 ベレッタM92FS――米国では民間に広く出回るほどのポピュラーな拳銃だが、日本に住む女子高生が手に入れるのは容易ではない。それでも、戦いに備えなければならなかった菜摘が何とか手に入れた武器がこれだった。

 1発、2発、3発――短く乾いた銃声とともに、静音を縛り持ち上げている触手が正確に打ち抜かれる。

 ギュルルル――銃弾によって穿たれた穴から紫色の体液を流しながら、管魔は苦しげな呻きを発した。怒りに、そして苦痛に震える管魔の本体――黒く醜いその肉塊に、菜摘は迷うことなく残った12発の弾丸を全て撃ち込んだ。

 グオオオォォォーーーッ!

 はっきりそれと分かる断末魔の悲鳴を上げて、管魔の身体はズタズタに四散する。飛び散った肉片は黒い霧となって宙に消えた。

「きゃっ!」
「静音っ!」

 数メートルの上空に捕えられていた静音は不自然な姿勢のまま落下し、地面に思い切り後頭部をぶつける。

「静音っ! 大丈夫!?」

 親友の悲鳴に菜摘は、管魔の生死を確かめるのは二の次と判断した。脱ぎ捨てた袴をその場に放ったまま、横たわる静音の元に駆け寄って抱き起こす。気を失っているのか、静音は目を閉じたまま動こうとしない。

「静音……? 生きてる……よね?」

 呼吸を確かめようと口元に手をかざす。大丈夫。息はしている。撫でるように頬に手をあてがうと、静音は意識を取り戻した風に薄目を開けた。

「う、うぅ……ん……」
「よかった……ううん、ごめんね。本当にごめん。アイツがこっち側に来てるんだって、ちゃんと気がついてれば、こんな危ない目に……」

 菜摘は涙ぐみながら静音の体を抱き起こす。この一週間、ずっと気を張りつめてきた菜摘が最も気を緩めた瞬間だった。

「――!!?」

 完全に不意打ちだった。抱き起こされた静音が突然目を見開いたかと思うと、目の前にあった菜摘の唇に自らの唇をあわせたのだ。
 何が起こったのかを理解するのに数秒を要した。その間に静音は菜摘の背へと腕を回し、たった今まで気を失っていた者の力とは思えない怪力で抱きしめる。
 それによってますます密着した唇から、静音はディープキスらしく唾液を流し込んでくる。いや、唾液と言うには少々量が多いようだ。それに何だか甘苦い。

「んんんーーっ!! むうぅーーっ!!?」

 困惑、そしてこの異常事態に対する恐怖から、菜摘は頭を振って逃れようとする。だが、吸い付く唇はまるで軟体動物のように、執拗に張り付いて菜摘の唇を離さない。その間にも甘苦い液体は静音の口腔から菜摘の口腔へ延々流し込まれ続けた。

(まずい……これって……)

 この味には覚えがあった。それも最も思い出したくない類の記憶だ。そう、1年前管魔に飲まされ、散々に菜摘の身体にトラウマを焼き付けたあの悪魔の分泌液だ。
 気がついたとはいえもう手遅れだった。口腔の粘膜から吸収された媚毒の成分は菜摘の神経を冒し、筋力の大半を奪い去っていたのだ。素面の状態でも振りほどけなかった静音の腕を、押し退けることなど出来るはずもなかった。

「んっ……んくぅ……ぷはぁ……」

 菜摘の唇が解放されたのは、毒液をもう牛乳瓶一本分は飲まされただろうかといった頃だった。熱く火照りながらもほとんど麻痺して動けなくなった菜摘の身体が、仰向けに地面に倒れる。
 唾液の糸が目の前の宙で光る。その向こう、目に涙を浮かべた静音の顔が見えた。

「菜摘……ごめん、せっかく助けてくれたのに……ホントはごめんって言わないといけないのは私の方なの。だって、私もう……」

 所々、涙のせいで不明瞭な発音になりながらも、静音は必死に言葉を紡いだ。
 痺れた身体がゆっくりと仰向けに倒れる。弾丸を失ってただの重い鉄塊と化した拳銃が菜摘の手から滑り落ちる。朦朧とした状態で、菜摘は「私もう」に続く言葉を想像した。

(まさか……いや、でも……だとすると……)
「う……ぁ……」

 うまく言葉を発することすら出来ない菜摘を見下ろして、静音は地面に座り込んだまま無言で涙を流した。罪悪感とも達成感とも後悔ともつかない感情が入り交じった、複雑な表情だった。

「お疲れさま、静音ちゃん。それから菜摘、お久しぶり」

 声は背後からかけられた。振り返るまでもなく、この短い一言だけで菜摘が声の主を特定するには十分だった。

(お姉ちゃん!!)

 仰向けのまま地面に頭を擦りつけるようにして、菜摘は背後の空間を見る。逆さになった視界の中、この一年探してやまなかった姉の姿が目に入った。

「いきなりこんな荒っぽいことしてごめんなさい。でも、菜摘はきっと嫌がるから、荒療治しかないと思ったの」
(荒療治……? 何よそれ? 何言ってるの……お姉ちゃん?)

 姿も声もしゃべり口調も確かに姉の穂積のものだ。だが菜摘は何とも形容しがたい違和感にとらわれていた。自分と同じ巫女装束に身を包んだ姉のその姿からは、明らかに異質な何かが発せられている気がしたのだ。

(そんな……魔物に操られてる……!? くっ……せめて身体が動けば……ちくしょう……)
「……言いたいことは分かるわよ。そんな顔されちゃ嫌でも分かるわ……あなたは昔から顔に出るタイプだったもの」

「菜摘、あなたは今こう思っているでしょう? 『お姉ちゃんは魔物に身体を乗っ取られて操られているんだ。卑怯な魔物め、お姉ちゃんを返せ!』ってね」
「……っ!」

 あまりにもそっくりそのまま思っていたことを当てられてしまって、菜摘は絶句した。もっとも、ほとんど麻痺した身体ではそもそも声を発すること自体ほとんどできなかったのであるが。

「残念ながらそれは不正解。私は間違いなく六車穂積そのものよ、意識も身体もね。1年前とそっくり同じって訳にはいかないけど……1年も経てば色々変わっちゃうもの」
「じゃ……あ……どう……して……」

 ギリギリと歯を食いしばりながら、菜摘はようやく痺れの切れかかった喉奥から言葉を絞り出す。困惑と疑問の色を浮かべる菜摘の顔を寂しげな瞳で見つめて、穂積は小さくため息をつき、言葉を続けた。

「本当は順を追って説明したかったんだけど……菜摘は真面目でがんばり屋さんだから、凄くショックを受けると思って……でも、順番は狂っちゃうけどちゃんと話すわ。説明が終わる頃にはきっと菜摘も納得してくれると思うし……」
「さっきあなたがその物騒な物で吹っ飛ばした触手ね、予想は付いていると思うけど、アレは本体じゃないわ」

 穂積は地面に転がったベレッタを指さして言った後、その指をそのまま白衣の合わせ目に掛けた。

「だって、本体はここにいるんですもの」
「――!!」

 白衣の生地裏には、布地が見えないほどびっしりと肌色の触手が生えそろっていたのだ。小指よりも細く短い触手が隙間なく生えるその様は、まるで南国の海の岩場に生息するイソギンチャクのようだ。
 はだけた胸元から、粘液にまみれて常時こね回され変形し続ける白い乳房が覗く。90のEと巨乳だがごく普通の人間の乳房と言える。異常なのはその頂上に生える乳首だ。径2センチ、長さ5センチになろうかという巨大な赤い肉筒が存在していたのだ。
 根元の乳輪も直径5センチほどにおよび、乳首同様真っ赤に充血してパンパンに膨れあがっていた。白衣の上から確認できなかったのは、布地の内側に貼り付いた触手の中に埋もれていたせいだ。

「あ……ああぁ……そんな……」
「凄いでしょ? このおっぱい……1年間ずっと弄られっぱなしだったから、こんなに大きくなっちゃったの。大きさだけじゃないのよ、感じ方もすっごいひいぃぃっ! ひんっ! あっ、ああっ、ソコッ、そこおぉっ!」

 水音と粘液をまき散らしながら、穂積の上衣の中から触手が這い出す。そのまま、露出して勃起した乳首へ、まるで刈り取るように巻き付いて絞り上げ、菜摘に見せつけるように執拗に舐め擦って穂積をよがらせる。

「こ……こんな風におっぱいの先っちょいじられるだけで……私もぉ頭の中が真っ白になって……ん……くぅんっ! ひゃううぅうっ! 凄いっ! もっとぉ、ゴシュゴシュしてぇぇ!」

 絞り上げられた肥大乳首へ、まるで話を遮るようなタイミングを狙うかのように、イボのような柔突起に覆われた触手が覆い被さる。柔らかいブラシとなった触手は、グジュグジュと水音を撒き散らしながら、感覚神経の集中するその器官を磨き始める。
 一こすり、二こすり――ストロークを重ねるたびに穂積の瞳の焦点は合わなくなってゆき、犬のように舌を出して息を荒げる。そんな中さらに快楽を求めようというのか、穂積の両手は自らの乳房をわしづかみにして、触手に対して自分から擦りつけようとする。
 顔面は紅潮し、明らかに異常な興奮状態だった。

「嘘よ……こんな……こと……お姉ちゃんが……」

 地面に倒れたまま、菜摘は信じられない思いで姉の痴態を眺めていた。少なくとも菜摘の覚えている姉はこんな人ではなかったはずだ。両親が死去し、叔母が結婚して神社を去ってからは、ほとんど一人で神社を切り盛りしてきた。その一方で、年の離れた妹にはいつも優しく接してくれた。美人だったにもかかわらず、男を寄せ付けない一種の高潔なオーラをまとったような、低俗な感情とは無縁の人だった。だというのに――

「うふ……まだ信じられないみたいね……でも菜摘もすぐに仲間になれるから……私たちみたいに管魔様の供物になって、最高の幸せを味わえるのよ」
「私……たち……?」

 予期していたとはいえ、穂積の言葉は菜摘にとって大きなショックだった。無事を信じて待ち続けてきた最愛の姉は、既に憎き管魔の手に堕ちて飼い慣らされていたのだ。そして、私「たち」という姉の言葉を信じるならば……

「あら、静音ちゃんのことが気になるの? だったら今から見せてあげましょうか? 変わり果てたあなたのお友達の姿を。静音ちゃん!」

 穂積はとろけた目線を、菜摘からその脇でへたりこむ静音へと移し替えた。呼ばれた静音は気力を振り絞るようにフラフラと立ち上がる。そして、切なげな、それでいて何かを待ちわびるような眼を菜摘に向けた。

「菜摘……私もうダメになっちゃったから……迷惑かけてごめん……足引っ張ってごめん……」

 ボソボソとつぶやくように言葉を紡ぎ出しながら、静音はスカートの裾に両手を掛ける。捲り上げられたその下からベージュのショーツが覗いた。いや、下肢の付け根を覆うその肌色の物体はショーツではない。あの忌々しい触手がびっしりと群生するように貼り付いているのだ。そしてソコからは、本来あり得ないはずの男性器が隆々とそそり立っていた。

「うそ……」
「嘘じゃないわ、現実よ。静音ちゃんはあなたが寝ている間、代わりに見張りをしている時に管魔様に見初められたの。そして男女の性を超越した快楽を享受できる素晴らしい身体を授かったのよ」

 静音の股間に根を下ろした肉色のヒトデは、静音の女性器から肛門をすっぽりと覆い隠し、柔毛に覆われた触手を体内へと潜り込ませている。それが一呼吸おきにゆっくりと胎動し、快感と不快感の中間のような刺激を送り続けていた。
 ヒトデの触手の隙間からせり出したペニスには極細の触手が巻き付いて、贈答品のハムのようにギッチリと縛り上げられていた。先端の尿道口からは透明の先走り液が染み出し、それを潤滑液にするように一本の触手が尿道奥深くへしっかりと突き刺さっていた。

「い、いや……ぁ……こんなの……私のせいで……」
「ほらしっかりして。菜摘は強い子でしょう? どんなに信じられないことが起きても、ちゃんと現実を見なきゃダメよ。それに、今回といい1年前のことといい、菜摘はちっとも悪くないわよ。だって私の静音ちゃんも、今とっても幸せなんだもの」

 穂積の眼差しは相変わらず快楽にとろけていたが、その口調は落ち着きを取り戻していた。やさしく諭すようなその口調は、去年まで菜摘が慕い続けてきた姉のものそのものだ。自責の念に潰されそうだった菜摘はその言葉に少しだけ落ち着きを取り戻す。話の途切れたのを確認したように、おずおずと静音が口を挟んだ。

「ほ……穂積さん……もう限界ですっ! お願い、これ外して、取ってくださいっ!」

 掴んだスカートの裾をぎゅっと握りしめて、静音は腰をぐいと突き出した。

「10点」
「え……?」

 目に涙を浮かべて呆然と突っ立った静音を見つめ、穂積は口元に小さく笑みを浮かべた。

「何を外して欲しいか具体的に述べられていない。その理由も全く述べられていない。他人に物を頼むというのに言葉遣いが全く出来ていない」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいっ!! 外して欲しいのはこの触手です! 5日前からずっと縛られたままで出させてもらってないんですっ! お願いですからもう出させてください……」

 静音は腰をぐるんぐるん振って赤黒く肥大したペニスを振り回す。淫裂と肛門そして尿道奥深くに入り込んだ触手たちがグポグポ音を立て、人外の快楽を静音の神経に送り込む。だが、網状に覆う触手によってしっかり縛られたペニスは決して射精することを許されない。

「ちっとも具体的にならないわねぇ……出すって何を出すのかしら? 縛られてるって何が縛られてるのかしら?」
「そ、それは……」
「このままだといつまで経っても話が進まないわよ?」

 一瞬言い淀んだ静音だったが、堪えきれないといった風に目をつぶって、頬を真っ赤に染め、淫猥な単語を口にし始めた。

「オチンチン……です。オチンチンがギチギチに縛られて、射精できなくて苦しいんですっ! ザー汁たっぷり出したい、射精したいのにいぃっ! 5日もこのまんまで、歩いたり走ったりするたびにオチンチンの先っちょがスカートの裏地でこすれて、もう気が狂いそうなほど気持ちよくて、でもイけなくて……お、オマンコでは何度もイッてるのに、お尻でもイッちゃったのに……どうしても射精できないのぉっ! ぐるぐる巻き付いてる触手取って……『ずるぅっ!』って尿道から引きずり出して欲しいっ! 溜まった精液吐き出したいんですうっ!!」

「うふふ……下品で素敵だわ……でもまだ50点。静音ちゃんは射精させてもらうためにいっぱい努力したんでしょ? その報告を聞かせてもらわないとね」

 50点と言われて一瞬不安げに歪んだ表情が、再び何かを覚悟したようなものに変わる。

「は、はいっ! ちゃんと穂積さんに言われたとおり菜摘を連れてきました! 悲鳴で誘い出して、管魔……様の供物になってもらうために媚薬と痺れ薬を口移しで飲ませました」
「!!」
「あら、菜摘ったら酷い顔して……よっぽどショックだったのね。そうよ、静音ちゃんは自分の快楽のためにあなたを売ったの。極悪非道ね、軽蔑するわ」

 命令を下したのが誰かということを全く棚に上げて、穂積はクスクス笑いながら静音を見下した。抵抗や弁解する気力は残っていない。静音はただ、言われたことを復唱するように自らを貶める発言を続けた。

「そぉですっ! 私はオチンチン射精させてもらうためなら何でもする、オチンチン奴隷ですぅっ! チンポ汁搾り出してもらうためなら平気で友達も裏切る最低の生き物なのっ! えぐっ……だから、だからだからあっ、もう意地悪しないで下さいぃっ!」

 静音はボロボロ涙をこぼして、しゃくり上げながら必死に懇願する。だが、穂積の口から出た台詞は残酷だった。

「そう……でもそれ、外せないのよ。私じゃあ」
「え……」

 あまりのことに静音は懇願することすら忘れてその場に硬直した。

「私も静音ちゃんと同じで、身体は改造されたけど超人になったわけじゃないから。力任せに引っ張っても取れないのよねえ……」

 すっ、と眼を細めて穂積は薄笑いを浮かべた。サディスティックな感情が背筋を駆け上り、ゾクゾクと身体を震わせる。射精管理によって、行動原理の全てが射精することへの欲求になってしまった哀れな静音の姿を見て、穂積は明らかに興奮し、それを己の快楽として受け止めていた。

「そんな……いや、いやあああああああっ! このままなんて、このまま射精できないなんてそんなの死んじゃいますぅっ! 何とかしてくださいっ! 射精ぃっ! チンポ射精したいのぉっ! びゅくびゅく白いの出したい、出したい出したいぃっ!!」

 ペニスと一緒に植え付けられた前立腺が作りだした精液は、静音の尿道を貫き塞ぐ触手によって堰き止められ、ペニスを内側から強烈な力で圧迫していた。内外からの圧力に悲鳴を上げる肉塊は、その持ち主である静音の精神を、崩壊ギリギリの淵へと追いやってゆく。誇張抜きで、静音は自分が狂い死ぬ恐怖に捕らわれていた。捲り上げていたスカートから手を離し、穂積の胸ぐらを掴んで必死にすがりつく。そそり立ったペニスにグレーのスカートが再び覆い被さり、先走り液のシミを作る。

「あわてないで。大丈夫よ、ちゃんと管魔様は見ていらっしゃるわ。直々に静音ちゃんのこと犯してくださることになってるの――柔らかいイボイボのたっぷり付いた触手でオチンチンをすっぽり覆って、牝牛の乳首を搾乳するみたいにザーメン搾り取られるの。出し尽くしてカラカラになって、もうやめてって泣いて頼んでも狂うまでオチンチンを犯され続けるのよ? 素敵でしょ?」
「あ……あああぁ……んっ、はあぁんっ……」

 穂積の言葉一つ一つが、静音の脳内で高まった期待感をさらに強くしてゆく。すがりついた姿勢のまま静音はじっと耳を傾けていたが、「狂うまで」のあたりまで聞くと力を失ったようにその場にくずおれた。

「ひあああっ! あーっ! イクゥッ! またイッちゃうぅっ! ……っくぅっ!」

 砂利と土の混ざり合う地面に、敏感な亀頭が押しつけられる。ゴリッという衝撃が甘い激痛をもたらして静音の脳を白く染める。座り込んだだけだというのに、静音は絶頂に達してしまった。
 子宮口近くまで膣内を埋め尽くす触手がぐいぐい締め付けられ、それに呼応するかのように淫裂を覆う肉ヒトデが激しくヒクヒクと痙攣する。穂積の赤い袴にしがみついて、静音は続けざまに数回気を遣った。

「あーー、あああぁーーー……イ……クゥッ! い、イッてる……のにぃ……出せないぃっ! 出せないよぉっ!」

 絶頂を迎えるたびに縛られたペニスはガクガクと激しく上下運動し、地面に何度も叩きつけられる。鈴口からは先走り液こそ吐き出してはいるが、触手によって堰き止められた精液は決して外に吐き出されることはなかった。精嚢と前立腺から送り込まれた精液は、尿道の奥深くで溜まり、周囲の組織を破壊せんばかりに高圧の液塊となって静音を苦しめる。

「助け……てぇ……もう、だめぇ……こんなの続けてたら……身体が壊れて……死んじゃいますぅ……どうか、どうか……」
「――来た……来たわ……管魔様が出てくるの……感じるわ、すご……くぅぅっ……んぁ……
あっ、ああああーーーっ! 出る、でるうぅうっ!!」

 泣きじゃくる静音を冷笑するように見つめていた穂積だったが、その瞳が突然虚ろなものになった。そして悦びの叫びの直後、まるでパニエを下に穿いたスカートのように袴が急に大きく盛り上がったのだ。
 管魔の本体が巣くっていたのは、穂積の子宮の中だった。ここなら万一見抜かれていても、決して手出しされない安全な場所だ。慎重で狡猾な管魔は、菜摘も静音も臆するに値しないと判断してからようやくその姿を外にさらしたのだ。

「あーーーーっ! あーーっ! いっぱい出てくるぅっ! 触手オマンコからずるずるでるぅっ! 産まれるぅっ! 触手産みながらイッちゃうぅっ! ひいぃ、ち、乳首吸わないでぇっ! ひゃう、イクッ! またイクウウゥッ!!」

 子宮をパンパンに覆い尽くしていた管魔は、その身体を複雑にくねらせ、絡まった触手をほどきながら、膣口から外へ外へと這い出してくる。子宮と膣は拡張と収縮の繰り返しを強要されて、穂積は何度も絶頂に達しながら触手を吐き出した。上衣の裏に貼り付いた触手達も激しく乳首を責め立て、イキ続ける穂積をさらに絶頂のループへ落とし込んでゆく。

「あ……あああぁ……早くぅ、早く……っ!」

 袴のスリットから、裾から何本もの触手が這い出して静音の両腕に絡みついた。柔らかくねっとりとした肉腕が触れた瞬間、静音の身体は待ちわびた刺激にびくんと痙攣する。汗で湿った皮膚に、触手はその柔毛を絡みつかせ吸着しながらズルズルと這い上ってゆく。

「ふぁ……そう……この……身体が、溶かされてくみたいな……あああああぁぁ……」

 血走っていた眼が徐々に濁ってゆく。限界まで焦らされ高められた性欲が、皮膚の細胞一つ一つから染み出してゆく感覚に、静音は満足げに嘆息した。
 両腕に2本ずつ巻き付いた触手は、制服の袖から中へ入り込み、汗をぬぐい取るように脇を舐める。そこから1本は脇腹へ這い下り、もう一本は形の良い胸を整えるスポーツブラの中へ潜り込んだ。合計4本の触手が繊毛の付いた胴体で静音の上半身を撫で擦りながら、小さく枝分かれした先端で敏感な乳首と脇腹をくすぐり続ける。

「あ……ひゃううぅっ! あっ、そんらぁ……どぉじに……なんてぇ……きゃううんんっ! お、おっぱい……感じすぎひゃうぅっ!! あーーっ! また、またイッちゃうぅっ!!」

 既にガチガチに充血していた乳首と、元々敏感な脇腹、そして肉ヒトデに犯され続ける淫裂と菊門。その全てを同時に責められ、己では制御しきれない快楽の奔流に流されながら、静音はまたも絶頂に達した。

「……っくあああああっ! いやあっ! もぉこれいやあっ! 早く早く早く、なんとかしてええっ!」

 それでもなお静音のペニスは射精することを許されない。封精とも言うべき責めの苦痛に、快楽を貪ることも忘れて静音は涙を流した。

 ずるり――呆けた表情の穂積が一つ体を震わせると、袴の裾から新たに2本の触手が現れた。地面を這うように進み、静音の両足を足首の辺りから絡め取る。そのまま空中へ、身体をひっくり返しながら持ち上げた。

「あっ……ああぁ……ああああぁ……」

 グレーのスカートが捲れ返り、陰部が露出する。紐状の触手はペニスに異常なまでに深く食い込み、血液の流れをほとんどシャットアウトしていた。どす黒い内出血が痛々しい。
 解放者を待ちわびるような様のそのペニスへと、新たに現れたパイプ状の触手が覆い被さろうと迫り来る。いよいよ目前に迫った解放の時に、静音は言葉にならない歓喜の声を上げた。

 ――ぱくっ!

「ひゃううううんんっ!! ふあっ! あっ、あっ、ああぁっ、ああーーーっ!!」

 食われる、という表現が最も当てはまるだろうか。肉筒の先端が環形動物のソレのように全方向に広がったかと思うと、ぱっくりとその半ばまで覆い被さったのだ。
 肉食獣であったならば歯が生えているであろう場所には、獲物を快感によがらせるための微細な繊毛が生えそろっている。それが媚薬成分を含む粘液をまとわりつかせながら、敏感な亀頭をゾリゾリと撫で擦り、何度も何度もしごき上げる。

「あひいーーっ! ひっ、ひぐううぅっ! いぐううぅっ!! イクのやめられないっ! はひゃうっ、出せないぃっ! 出せないのに、ああんああぁっ!!」

 ペニスに絡まりついた忌々しい触手をようやく外してもらえると思っていた静音だったが、管魔の責めは残酷で苛烈なものだった。射精を許さないまま、ペニスを始めとする全身を愛撫して絶頂に導き、快楽と焦燥を同時に与え続けるのだ。果たして静音は封精地獄の苦しみの中、同時にイキ続けるという異常な精神状態に陥り、白目を剥きながら支離滅裂な言葉を吐き続けた。

「あ……は……静音ちゃん、すっごい気持ちよさそぉ……私もつけてもらおうかなぁ、オチンチン……凄そう……」
「ひやあああっっ! イクッ! 苦しひぃぃっ! イキたくないぃっ! いや、オチンチン苦しいぃっ! イかせてぇっ! い……ぐううぅぅっ!!」
「……んっ、あぁ……また、また出てくる……また、私触手産んじゃう……っ! ひやあぁぁっ!!」

 ジュルリと派手な音を立てて、新たに4本の触手が袴のスリットから顔を覗かせる。触手達は即座に目の前で牝臭を漂わせる獲物へ襲いかかり、各々が背中へを、下腹を、内腿を、綺麗に舐め回すように愛撫して、静音の体内でくすぶる快楽のテンションを高めてゆく。絶頂の間隔は徐々に短くなり、もはや常にイキ続けている状態になっていた。それでも射精することを許されないペニスからもたらされる苦しみに、静音は泡を噴きながら宙をのたうち回った。

「イグウぅっ!! からだじゅうぎもぢよくて、イッちゃうぅーーっ! いっ、ひぃぎいぃっ! 出させてぇぇ……射精ぃ、射精したいぃぃっ! チンポぉ、チンポ射精させてえぇ……え、えっふくぅぁぁああ!?」

 そんな状態が10分も続くと、静音はもはや狂った台詞を吐きながらヒクヒク痙攣する肉人形と化していた。そこに至ってようやく動きが見え始める。これまで外からしごき立てるのみだった肉筒触手が、内壁から生えた長めの柔毛を引っかけるようにして、鈴口に刺さった触手を引きずり出し始めたのだ。

「あ、あっ、あああぁ……引っ張り出されるぅ……凄い抜けてく、ひゃう、あひゃうぅ、きゃうんっ!!」

 周囲の組織と癒着しかかっていた触手が引き抜かれる感覚は、静音にとってまるで内臓が引きずり出されてゆくような感覚だった。1ミリ進むごとに尿道の内壁からは激しい快感がもたらされ、意味を為さない鳴き声を発しながら静音はイキ続ける。
 触手が引き抜かれたその後を追いかけるように、尿道の中は溜まりに溜まっていた精液で満たされてゆき、静音に解放の時を告げる。

「あああっ! ザーメン来たぁっ! 出るっ、出るのぉぅぅっ! びゅくびゅく白いの、いっぱい、いっぱい……っ!」

 だが、その時は訪れなかった。鈴口まであと3センチというところまで引き抜かれた触手は、そこから尿道奥深くに再び逆戻りしはじめたのだ。勢いよく外へ噴き出そうとしていた精液が再び押し込まれ、その圧力に尿道が、輸精管が、前立腺が悲鳴を上げる。

「ひいいぃぃぃっ! ひぎぃぃっ! いやあぁ、もぉ、こんらのぉーー……ゆるひてぇーーっ! ひぐぅっ! ひやうぅぅぅっ!!」

 あろうことか触手は尿道の中を行ったり来たり、ピストン運動を始めたのだ。ペニスの中の全ての腺組織が拡張される苦痛に、静音は全身を海老のように跳ねのたうたせ許しを請い願った。

「はあぁーーっ、はぁーーっ! あ、あぁっ、こ……壊れちゃう! 破裂するぅ! 抜いてっ! 抜いてぇっ! 出る出る出るうううぅぅっ!!」

 静音は、内圧によって組織が破断されるような感覚に襲われる。だが本当にペニスが破裂するまでには至らなかった。圧力に負けて、徐々に触手が外へと押し出されてゆく。今度こそ、静音が待ちわびた解放の瞬間だった。ブルブルッと軽く数回身体を震わせて、膣と肛門に入り込んだ肉ヒトデをひときわ強く締め付けると、放水するホースのようにペニスをのたくらせて、吐き出された触手と一緒に半ゲル状の白濁液を噴き出した。

「あひゃあああああーーーんっ! んくぅううっ! お、おおおおぉぉっ! ほごおおおおおおおおぉーーっ!!」

 吐き出された精液は、ペニスを覆う筒状の触手の中へどんどん吸い上げられてゆく。掃除機のように吸引されているのだ。解放の悦び、そして無理矢理精液を搾り取られる快感と苦痛に、静音は半分出した舌をヒクヒク震わせながら、咆吼と言って差し支えないほどの異常な絶叫を発し、続けざまに絶頂に達した。

「しゅごいいぃっ! チンポいいぃっ、チンポミルク搾り取られるの気持ちよすぎるのぉ……ひゃうっ! イクぅっ! またイグゥッ!! あーーー、あああぁーーーっ! 凄いよぉぉ……オチンチンイクの止まらないよぉ……ひやぅううっ! ザー汁搾られるううぅっ!! チンポもオマンコも一緒にイクううぅぅっ!! あーー、あぁぅぁ……」

 肉筒触手はゴボゴボ音を立てて、静音のペニスから発射される精液を吸い上げ続ける。搾精される快楽にすっかり脳を灼き尽くされた静音は、自ら腰を振って亀頭を繊毛に絡めるように擦りつけ、射精し続けた。
 断続的に襲う射精の快感に静音が全身を痙攣させると、身体の各所に絡みつく触手がそれに反応するように苛烈な愛撫を施す。途切れることのない絶頂の快楽の中で、静音はただ幸せだけを感じていた。

「うふふふふふ……静音ちゃん幸せそう……ねえ、そう思わない? 菜摘?」
「えっ……」

 あまりの光景に完全に放心していた菜摘だったが、自分の名前を呼ばれて我に返った。身体はまだ動かせない。喋るのも億劫なままだ。

「菜摘はもう知ってるわよね? 人知を越えた快楽……人間には決して到達できない幸せの境地……1年前にそれを垣間見たでしょう? あの続き、味わってみたいでしょう?」
「そっ……そんなこと……」
「誤魔化したって無駄よ。あの快楽は一度身体に叩き込まれたら絶対に忘れられないもの。あなたが1年間ずっと心の上っ面で否定してきても、脳の奥深くに眠っているのよ。何もかも分からなくなるぐらいの快楽にもう一度晒されたい、って気持ちがね」
「私は……」

 菜摘は否定できなかった。目の前で静音の痴態を延々見せられたせいだろうか、それとも穂積の言葉によって1年前のどす黒い記憶が蘇ってきたせいだろうか。とにもかくにも、菜摘の全身は興奮によって紅潮し、乳首はしこり立ち、薄い生地で出来たショーツはあふれ出してきた愛液によってビショビショに濡れていたのだ。

「無理することはないわ。これからゆっくり解らせてあげるから」
「……!」

 眼を細めて薄笑いを浮かべる穂積の視線を受けて、菜摘は背筋に冷たいものを感じた。視界の隅ではいまだに、静音が空中に逆さに固定されたまま甘い嬌声を上げ続けていた。


つづく!