そこは、村と言うには名ばかりの小さな集落だった。 今にも崩れ落ちそうな廃ビル群の間に一本井戸が掘られ、そこに人が住み着いただけというその集落は、異様な雰囲気に包まれていた。 どこにそれほどの人数が居たのだろうと思わせるほどの村人が、広場になっている井戸の周りに何かを取り巻くように集まっている。 周囲のには数台の改造車輌が乗り付けてあって、村人たちとは明らかに雰囲気の異なる筋肉質の男たちが建物に出入りし、次々と段ボールの箱を運び出していた。 一見して、野盗の襲撃を受けて、略奪されるがままに抵抗していないただの村、といった風だが、異様な空気は村人の取り巻く広場の中央から発していた。 一人の痩せた若い男が異常に身体を震わせて立ちつくしていて、それを後ろから妻らしき女と村人数名が支えながら必死に何事か呼びかけている。 他の者たちは、集まって来たもののどうして良いか分からずにただうろたえているのみ、といった様子だ。 「そ、村長……気を確かに……」 「そうよ! アンタがしっかりしないでどうするのよ!」 村人の呼びかけにも妻の呼びかけにも、村長と呼ばれた男は無反応のまま身体を痙攣させ続けるのみだ。明らかに身体に異変を来していた。白目を剥いて低いうなり声を上げながら涎を垂れ流す。 「う……うぐるるるぅ……ぐぼっ!」 「きゃあああああぁっ!!」 ごきり、と関節の外れる音がする。 直後、村長の口が大きく開き、奥から十本以上に及ぶ白い触手が唾液と胃液の混合された飛沫を撒き散らしながら飛び出してきた。 完全に外れた顎関節が支えを失いぷらぷらと揺れる。 「あ……ああぁ……」 夫の身に起こった変化に戦慄して、妻は思わず夫を支えていた手を離し、その場から後ずさった。 今にも倒れそうだった村長の身体は、だらりと力が抜けた状態ながら何とか二本の足で地面に立っている。 まるで骨の抜けた皮だけの身体が内側から支えられているような不自然な立ち方だ。 その触手に埋め尽くされた口の端から、流れ出した涎が糸を引いて地面に落ちた。 「な、な……なんなのよコレ……ちょっとあんた、どうしたっていうの? ねえ、何かの冗談……あっ!」 恐怖に声を震わせながら女は、数分前まで夫だった目の前の『ゆらぎ』に向かって語りかける。 反応はあった。粘液をまとわりつかせながら猛然たる勢いで伸びた触手が、女の全身をまるで獲物を捕獲するように絡め取る。 一声上げる間に、引きずるようにしてその身体をたぐり寄せた。 「きゃあぁぁっ! ちょっと、やめ……うぅぅ……」 男の身体の中で人間の原形をとどめているのは、かろうじて地面に立っている二本の脚のみだった。 身体の内部に満たされた触手が、今や口のみならず、ヘソ、眼窩、鼻孔、それに陰部といった皮膚の柔らかい箇所を突き破って飛び出していた。 男の血液と体液にまみれた白蛇のような触手たちが、かつての妻の全身にじりじりと絡みついてゆく。 想像を絶する事態に抵抗することも忘れたか、女は不快感に身をよじりながら呆然と自分の身体に絡みつく触手を眺めるのみだ。 そんな女の様子に構うことなく、触手群はその胴に粘液を光らせながら、痩せた腰のくびれを這い回る。 一本2〜3cmの触手は、その先端がさらに数ミリの柔毛状に先割れしており、その先端もまた細いブラシの毛のように枝分かれしているフラクタル状の形状をしていた。その各々が思い思いに獲物の皮膚を舐めるように複雑な動きで粘液を擦りつけてゆく。 女の身体に絡みつく触手は徐々に本数を増やしていた。 ズダ袋と大差ないボロ布様の衣服が内側から引き裂かれる。砂埃と垢が染みついた褐色の肌が露わになった。栄養が足りていないのだろう、殺到する触手の合間から覗く腹にはあばらが浮き出ている。 触手たちは粘液を分泌しながら女の皮膚の垢を舐め取り、くすぐり、マッサージしながら這い上ってゆく。申し訳程度にふくらんだ胸の頂に細毛を這わせ、浅黒くくすんだ突起を転がした。 「やめ……そんな、トコ……くぅぅっ! んっ……はぁ……はぁ……はぁ……」 柔毛がぞわりぞわりと細かい角質の隙間を、毛穴をなめ回すそのたびに、わき起こるむずがゆい刺激とほのかな快感に女は身をこわばらせ、鼻から吐息を漏らした。 触手の責め手はますますその勢いを増してきた。乳首の毛穴をほじくり返し、押しつぶし、こね回し、吸い立てる。腹を這う触手は脇腹のくびれをくすぐり、脇を舐め、股関節をぞわぞわとなで回す。 興奮に熱くなりぬれそぼる秘唇を舐めようとする者達は、枝毛だらけの手入れの行き届いていない陰毛をかき分けて、色素の沈着した陰唇を広げて吸着する。 汚い肌からは想像出来ないようなピンク色の膣内粘膜が晒され、分泌液によってきらきらと光っていた。 「はぁっ、あぁぅっ……こん、な……気持ち悪……い、のに……くひゃあっ!」 一連の愛撫は全て女の『ツボ』を完全に心得たものだった。かつての夫の脳の中に眠っていた房事の記憶が吸い出されて生かされているのだ。全身からくまなく襲い来る快楽の中で、女はいまだに身に起こった出来事を整理しきれないでいた。 昨日までは苦しいながらも夫を中心に村は平和な暮らしをしていたはずだった。時代といい環境といい、村の将来は暗いながらも、村人が一致結束して事に当たればかならず道が開けるはずだという希望があった。 なのに……たった数十分の間に全てが壊されてしまったのだ。 建物は次々破壊され、村の生命線だった貯蔵食糧は奪われ、夫は何やら妖しげな術で化け物に変えられてしまった。そして自分は…… 「ひっ、ひひゃいぃぃっ!? どうして……そんな……あっ、くぅっ! ……う、ひゃああんっ! だめ、だめええぇっ!」 息をつく暇も与えない連続攻撃に、女は呼吸困難に陥り切れ切れに弱い悲鳴を上げる。そしてカクンと力を抜くと、堪りかねたのか淫裂の中から黄色い迸りが溢れ出た。 一度漏れ始めてしまうとそれは留まることなく、触手ののたうつ太腿をびちゃびちゃと濡らしてゆく。 「ああああぁぁ……はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……」 脱力した身体を触手に委ね、女は大きく吐息を吐く。目標が抵抗するそぶりを見せなくなった故か、触手による畳みかけるような愛撫は停止していた。 宙に持ち上げられたその身体からぽたぽたと失禁の残滓が地面に落ちる。 「じゅる……ふじゅるる……きしゃあああぁっ!」 「はぁ、はぁ、はぁ……ひいっ!?」 涙にかすんだ視界の中、女はかつて夫だった異形の者の腹が大きく横に裂けるのを見た。 奇怪な鳴き声とともにそこから子供の腕ほどの太さがある触手が生えてくる。 みちみちと肉の裂ける音を立てながら、まるで尿の匂いを嗅ぎつけたかのように極太触手は女の秘裂目指してじりじりと空間を詰めていった。 「ひっ、いやあああああぁっ! ……っ! ぎいいぃぃっ!!」 ドリル状に窄まったその先端が膣内へ侵入した。ぷるぷると蠕動する肉塊が膣の内襞を押し広げ、そのシワに沿って枝分かれした細長い触手を這わせる。 圧迫感に思わず悲鳴を上げたのは一瞬だった。膣内をくすぐり這う触手の微妙な刺激によって、女は徐々に痛みから解放されていった。 連動して動きを再開した身体の各所に絡みつく触手たち。それらがもたらす刺激によって、さらに弛緩した膣筋がズブズブと極太触手を膣奥へと受け入れてゆく。 「くっ……うえぅっ! はぁっ、はぁっ……あぁ、入ってくるぅ……ひひゃぁっ!」 極太触手の瘤が一つ膣奥に吸い込まれてゆく度に、女は腰をのけぞらせて荒い息を吐く。そして同時に涙の浮かぶその眼からは光が失われていった。その間を埋めるようにして身体の他の箇所にとりついた触手たちが活動を活発化してゆく。 乳首にとりついたものは、乳首を転がし舐めるのみでは飽き足らず、乳輪と乳首の境界を円を描くように舐め、刺激に充血勃起した乳首をしごき上げて肥大化を促す。 乳首だけで達してしまいそうなほどの快楽に加え、足裏、膝裏、肛門、脇腹、股関節、ヘソ、脇、首筋、耳といった敏感な箇所を全て同時に舐められているのだ。 「はぁぁっ! ひゃんっ! そ、ソコだめぇ! 耳ぃっ! お尻もぉぉっ! くすぐっ……た、ひぃっ!」 汚れや垢に反応するのだろうか、特に肛門と耳への愛撫は執拗だった。進入経路が狭いと知ると、枝分かれした触手の中でも細いものが先陣を切って侵入を開始する。 ネトネトのその体に耳垢を吸着しながら回転し、耳道を掃除しながらその内側からゾワゾワという刺激を加える。 触手によってぴったりと両耳を塞がれて、一種の感覚遮断状態に陥った女は、ますます触覚を鋭敏にさせてゆく。 肛門についても似たような有様だった。固く閉じられた括約筋をものともせず、極細の触手がその門をこじ開け、膣よりも多い肉のシワの一本一本をなめ回す。陰毛同様手入れの行き届いていない尻毛の毛穴に溜まった垢を、綺麗に舐め取ってゆく。 「はぁっ、はひぃ……いうぅんっ! な、中に、いっぱいぃ……」 断続的に全身から伝わる快楽に、女はもはや身体のどこに意識を持っていって良いかわからないパニック状態に陥っていた。すでに膣の中は隙間なく軟質の触手で埋め尽くされ、下腹は目視で確認出来るほどに膨らんでいる。 「あぁぁ……こ、これ以上されたら……やぁっ、い……くううぅんんっ!!」 快楽の極みまで後少しという状態に置かれていたその身体に、一気にとどめが刺された。全身の各所の触手がほんの少し動きを変えたのだ。 耳内に深く入り込んだ触手は、その先端で鼓膜をぺろりと舐め、乳首や他の柔らかい皮膚に取りついた触手は、一斉に吸引行動に出た。 膣奥に入り込んだ極太触手の先端が、子宮底に舌を伸ばしペロペロとなめるように刺激を加える。一定リズムだった愛撫が、急激で強力な責めへと転じ、それによって女は一気に絶頂へと押し上げられていた。 ゾリゾリと鼓膜が擦られる音を聞きながら、歯を食いしばってビクビクと裸身を震わせる。 「ああぁあっ! あっ、あひっ、また、またイクうぅぅっ! とまらなひぃいぃっ!」 一度乗り始めた絶頂の波は留まることはなかった。二度三度、揺り返しのように続けざまに襲い来るオルガスムスの波にもてあそばれる。 あまりの刺激に正気を失った女は、犬のように舌を出し、ハッハッと短く息を吐いて自ら腰を振り、快楽をむさぼった。 そしてその数瞬後、子宮口を押し広げて先端を子宮内に突っ込んだ極太触手が、欲望の象徴たる白濁をぶちまけた。子袋の中になみなみと注がれた怪物の子種は、女が悪寒と快楽に身をよじるたびにタプタプと音を立てて、その存在を自己主張する。 溢れんばかりの大量の液体を注ぎ込まれながらも、触手によってぴったりと栓をされているためか、女の淫裂からは子種が漏れ出ることはない。 「くうぅんっ! あんっ、あーっ! 溜まって……お腹の中にいっぱい溜まってるぅっ! タプタプいって……浸みるぅぅっ! そんなぁ、かき回し……ひぃっ! 触手が、回っ……かっ……また、またダメぇぇ! イクッ! またイっちゃうぅっ!」 ゆらぎは大量の子種を逃がすことなくじっくりと確実に子宮壁に浸透させるように、子宮口を貫く触手を回転させたり前後運動させて、子宮内を攪拌する。 内膜から媚毒が浸透する妖しい感覚と、休みなく与えられる肉体的性感刺激に、女はまたも膣筋を激しく収縮させて絶頂を迎えた。 わずか数分の間に繰り広げられたこの惨状に、数十人に及ぶ村人達はどうして良いかわからずにいた。 口々に村長が、奥さんがなどと言いながら、やや離れた位置で見守っているのみだ。 この村に略奪にやってきたはずの野盗たちにとっても、人知を越えたおぞましい光景だった。 「相変わらずエグいねぇ……」 「全くだ。目の前で裸の女がアンアン言ってるってのに、こんだけグロいと息子も全然反応しねえ……オイ、巻き添え喰わないうちにとっとと帰るぞ」 軽い憐憫のまなざしを化け物とそれに犯される女に向けて、野盗達はさっさと自分たちの車に引き上げていった。青ざめた村人達はただ呆然と見つめるのみだ。 女の子宮に精を放出してとりあえずの目的を遂げたゆらぎは、白目を剥いて絶頂の果てから帰ってこない女を触手で抱きかかえたまま、次の獲物を求めて周囲に触手を伸ばす。 ここに至ってようやく危機感を感じた他の村人達は悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らしたように逃げまどい始めた。 アイが村にたどり着いたのはこの時だった。 |